#ナポリレー

ナポリレー第1弾「世界から抜け落ちた有馬自由の奇妙な物語」が完結しました!
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公式Twitterにて開始!

2020年4月より日替わりTwitterリレー『ナポリレー』更新スタートいたします。月曜 細見大輔、火曜 瓜生和成、水曜 有川マコト、木曜 有馬自由、金曜は週替わりゲストの面々で書き綴ります。


(1) 担当:細見
細「いや、ホントね、ひくぐらい。ひくぐらいデカいんすよ。有馬さんの事だからどうせまた話盛ったんでしょって思ったんすけどね〜いや、すんません。でもなんか、あれだったら俺、アリかなって思いますわ。さすがにちょっと1人だとアレなんで、ここは1つ皆さんに協力してもらって…」

(2) 担当:瓜生
瓜「(どうしたんだろう細見君、いつもの強気なかんじが全くないし、あとちょっとぼーっと聞いてたから話の趣旨が全然、全然わかってないんだけど、今更 何の話か聞けないし、どうしよう、、とりあえずノッておくか)
そうだね。いいよ、全然協力する。協力する。まずどうすればいい?」

(3) 担当:有川
川「ちょ待てよ!絶対無理!協力なんて出来っこないね!デカすぎ!マジデカ〜!…ぶっちゃけデカけりゃいいってもんじゃないでしょーよ。つか、この際だから正直に言うけどさ、俺どっちかっていうと『小さい派』なんだよね。断然、小さい方がいい!有馬さん…コレは無いわ。」

(4) 担当:有馬
馬「ま、ま、そんな『小さい派』って…マコッちゃん、ビールは大ジョッキ頼むじゃない、んで、そのままでかいジョッキに氷と焼酎ドバ~(笑)…いいから、ね…ほら瓜君もボンヤリしないの…ん?…細見君…どした?…何見てんの?」

明転(真っ暗だったらしい)

馬「だ、誰?」

(5) 担当:山口
(有馬、目をあけるとそこは飲み屋『クラゲのゲ』。山口 顔を隠し拳銃を突きつけてる)

山「動くな、静かにしろ」
馬「シゲか?」
山「違う!シゲじゃない。お前 寝言うるさいんだよ、デカイとか小さいとか」
馬「いや、その声しげやろ」
山「(声変えて)違います。細見です」

(6) 担当:細見
馬「違いますて、なんで急に敬語やねん。やっぱりお前シゲやんけ」
山「…」
馬「なに黙っとんねん」
山「…」
馬「だいたい…細見君がおるわけないやろ、もう…(時計を見て)うわ…もう2時やんけ。そろそろ帰ろか」
山「細見さん…」
馬「あ?」

山口、突然大泣きする。

(7) 担当:細見
馬「泣くなて」
山「(号泣しながら)だって…だって…有馬さんが細見さんの事思い出させるから」
馬「いや、お前が名前出したんやろ」

トイレから帰ってくる瓜生。

瓜「お、有馬さんおはよ〜」
馬「すまん、わし寝てしもて」
瓜「(山口に)なんで泣いてんの?」

(8) 担当:瓜生


瓜「しげちゃん、なんで泣いてんの?」
山「有馬さんが細見さんのこと思い出させるから」



山「有馬さんが細見さんのこと思い出させるから」
瓜「なんで?なんで細見君思い出すと泣くの?」
山「有馬さんが細見さんのこと」
瓜「しげちゃんさ、

(9) 担当:瓜生
しげちゃんさ、有馬さんのせいにしてるけどさ、最初に『細見です』って言ったの、しげだよ。トイレにいても聞こえたよ。」

沈黙

瓜「あと、そのピストル返して。(村岡)晋さんにかりてるやつ(小道具)だから。箱から出さないでよ。あとお面外してよ。ゴム伸びるから。」

(10) 担当:瓜生
(瓜、山口のお面を奪い取る。ピストルを取り返そうとするが放さない山口)
瓜「え?ちょっと。なにやってんの?酔っ払ってんの?」
山「細見です細見大輔です細見です細見細見大輔です細見、、細見、、」

(拳銃の奪い合い、やがてお互いの手から離れ床に叩きつけられ、破損する)

(11) 担当:瓜生
山(壊れた拳銃を見て)「…あ…」
瓜(壊れた拳銃を見て)「…あ…」
山(有馬を見て)「ぼくは、細見です。細見大輔です。」
馬「なに言うてんの?」
瓜(拳銃を拾って)「どうすんのコレ…」
山「大輔です。」

沈黙
(テーブルに突っ伏して眠っていた有川 起きる。)

(12) 担当:瓜生
(有川、煙草を探しながら)

川「今何時?」
瓜「2時」
川「なにやってんの?」
山「細見です。」
川「…え?(寝ぼけて笑いながら煙草に火をつけようとする)」

(山口、有川のライターに、テーブルの水割りをかける)
沈黙

川「…なにすんだよ」
山「細見です。禁煙です。」

(13) 担当:有川 
川「禁煙?」
山「はい」
川「…そっか。ごめん」

有川、シゲの手を握って…

川「吸わないよ、細見くん」
馬・瓜・山「…え?」
川「…あれ?細見くん…なんか雰囲気変わった?」
馬「…マコっちゃん?」
川「なんか…デッカくなった?…横に?」
瓜「まだ酔ってるの?」

(14) 担当:有川
川「酔ってる?俺が?…いやいや、絶対デッカくなったよね?細見くん、ねえ?」
山「あ、あの…」
川「マジデカ〜!」

有川、立ち上がろうとするが、すかさず瓜生がブン殴る。
床に崩れ落ちる有川。気絶。

瓜「ごめんね。話がややこしくなるからさ。もう少し寝ててね…」

(15) 担当:有馬
馬「あらら…ホンマすぐパンチがでるなぁ」
瓜(苦笑しつつ)「…つい、ね」
馬「短気は損気やで…(笑)」
山「うわ…」

山口、そばのグラスを一気呑み

馬「おい、それオレの…て、あ!お前…ボトル空やないか!」
山「ウボブ…」
馬「オレ今日入れたばっかりやのに!」

(16) 担当:有馬
山「ちが…川、川…有川さんが…」
瓜「ねぇ、ここ」
馬「ん?」
瓜「床…水溜まり…」
馬「あ、ホンマや」
瓜「匂い…」
馬「……シゲ…」
山「な、なんですかぁ!」
瓜「トイレ行ってやんなよ」
山「なにがですかぁ!!」
馬「こないだ家でもやったらしいな」

(17) 担当:有馬
山「あー!そ、それ言うかぁ!」
瓜「え?またぁ?」
山「またってなんだぁ!お、おまんら何の話ばしよるとですかぁ」
馬「誰やねん。んで、また怒られて反省文書いたんやろ」

山口、壊れた拳銃を取る

山「チッチッチッ、やめな、もうやめな坊や達。家族の話は…ダメ」

(18) 担当:有馬
瓜「えー、もう何回目?」
馬「3回目」
山「4回目だぁ!」

瓜生、山口をブン殴る
のびる山口

馬「あぁ…」
瓜「家の人、後始末、大変なんだよね…」

二人、なんとなく床の水溜まりを見つめる


瓜「大輔…」
馬「ん?」
瓜「細見君、言ってたね」
馬「何?」

(19) 担当:有馬
どこからともなく細見、出る

細「くそぉ、しばらく休みだと思ってたのに…早えよ、もう回想シーンかよ」
瓜「おはよう大ちゃん」
馬「おはようございます」
細「はい、皆さん揃ってますか揃ってますね、はい、おはようございます」

有川、山口、サクッと立ち上がっている

(20) 担当:有馬
細「ん?シゲ、どうした、そのズボン?」
瓜「あ、濡れてる?」
馬「びちゃびちゃやないか」
山「これは…汗…いや、さっき…ミル…レモンティーを」
細「(無視して)皆さん、事件です」
4人「……え?」
細「昨夜、通報がありました」
川「何?何が起きたの?」

(21) 担当:有馬
細「説明の前にまず、この映像を見て下さい」

全員モニター(か何か)を見る

瓜「…リムジン?」
川「デカイな…」
山「あ」
川「!危ね…」
馬「スピード出しすぎやろ…」
瓜「…リムジン?」
細「車から出てくる人、よぉく見てください」
山「…この人?」
馬「誰や?」

(22) 担当:海部

川「黒ずくめだよ」
細「ある諜報機関に問い合わせたところ、この男はカイベ某(なにがし)年齢約51歳!」
馬「約51歳てなんや?」
瓜「フワッとしてるね、あ、こっち見た!」
川「カメラに気づいたんだ!」
山「近づいて来ますよ!」

(23) 担当:海部
海部という男、近付きカメラに話しかけるが音声は入っていない。

馬「あかん、何言うてるかわからへん」
細「そこ、ちょっと巻き戻してー‼︎」
川「え?誰に言ったの?」
口「あ!巻き戻った!」
瓜「降りて来るところからだ」

(24) 担当:海部
細「では、私が得意の読唇術で彼が何と言ってるか読唇してみましょう!」
瓜「重複表現」
細「集中させろやー‼︎(懐から灰皿出し有川に投げつける)」
川「なんでかー!」
山「有川さん、シッ!」

映像を見ている細見、それと映像を固唾を呑んで交互に見つめる3人。

(25) 担当:海部
海部の口パクにアフレコする様に細見

細「ネジ、ネジは〜いりまへんかぁー?でっかいネジから〜ちぃっさいちぃっさいネジまでぇ〜、人と人との絆を結ぶぅ〜、海印(かいじるし)のネジはいりまへんかぁ〜?」

そして映像では海部が握った手をカメラにグイッと近づける。

(26) 担当:海部
手を開くと掌には幾つかのネジ。そのアップで映像終わる。

全員「……。」

細見、精魂尽きてその場に倒れる。

山「あ、細見さん!(駆け寄る)」
馬「無茶するからや、隣のソファーに!」

瓜・川・山「しっかり」などと言いつつ細見を隣室に運びだす。

一人残る有馬

(27) 担当:細見
モニターに映るネジ。
しばらく有馬が見つめていると、ネジが次第に大きくなっていく。


「あれ?映像止まってない?」

モニターに映るネジがどんどん大きくなる。
やがて画面いっぱいに広がると、今度はモニターを突き破って加速度的に大きくなる。

(28) 担当:細見
馬「え?なんなんこれ?え?デカっ!デカすぎるて!」

有馬、怖くなりこの場を離れようとするが、何者かに手足を掴まれる。

馬「ひっ!」

磔状態の有馬に巨大なネジが迫る。

馬「離せっ!離せて!」

有馬、さらにもがくがどうにも動けない。しまいには誰がが有馬におぶさる。

(29) 担当:細見
馬「重っ!」

見ると髪の長い女性が。有馬の耳元で囁く。

女「ねぇ、作ってよ。ねぇ、作ってよ」
馬「なんやねん!何をやねん!てか、離して!死ぬ!死ぬ!」

巨大なネジがやがて有馬の体を取り込む。
ネジの中の有馬。ネジマ。

(30) 担当:細見
女「待ってるから…待ってるからね…」
馬「おい!説明してくれ!何をやねん!何作ったらええねん!」
女「…劇場」
馬「げ、劇場?あーっ!」

有馬、ネジと共に消える
暗転。
再び明かりがつくと、そこは飲み屋『クラゲのゲ』のトイレの中。
細見、瓜生が有馬の顔を覗き込んでいる。

(31) 担当:細見
馬「あれ?」
細「やっと起きた」
馬「え?あれ?わし…」
瓜「やっと起きた」
馬「え?」
瓜「もう2時過ぎたよ。帰るよそろそろ」
馬「え?わし…寝てた?」
細「はい」
馬「ごめん」
瓜「まこっちゃんもまだ寝てるけどね」

(32) 担当:細見
有川、床で寝ている。その上に折り重なるようにシゲが寝ている。その姿はまるで幽体離脱前のザ・タッチ。

馬「どういう状況やねん」
瓜「はーいみんな起きるよー」

瓜生、床に寝ている有川、シゲを起こす。
有馬もトイレからフラフラと出てくる。

(33) 担当:細見
山「やばい…なんか双子になる夢見た」
川「お前!重い!どけっ!」
山「え?あ、すんません!(シゲ、状態に気付いて)…幽体ー」
川「うるせーよ!」

シゲ、慌てて有川から離れる。
その際、有川の膀胱を強く激しく刺激する。

川「あ、やべ…」

有川、急いでトイレに駆け込む。

(34) 担当:細見
細「大丈夫ですか?なんかうなされてましたけど」
馬「いや…なんか変な夢みてもーた…」
細「夢?」
馬「…劇場がどーたらこーたら」
細「あー…有馬さん寝る直前までその話してたから」
馬「え?なんの?」
細「ほら、今年の年末にやる小屋がどこも取れなかったって」

(35) 担当:細見
馬「あーせやったか…すまん…」
細「まあ、この話はまた今度しますかね」
瓜「はい、1人2000円」

有馬、ポケットの中を探ると中から一本のネジが。

馬「ネジ?」
山「あ、いいですよ。僕、全部払います」
馬「へ?」
山「金なら腐るほどあるんで」
馬「いや、何言ってんねんお前」

(36) 担当:細見
瓜「じゃあシゲごちそうさまー」
細「ごちそうさまー」
馬「いやいや、おかしいおかしい。何言ってんねん」
瓜「何が?」
馬「シゲが金なんかもっとるかいな」

シゲ、サッと会計を済ます。財布には大量の万札とクレジットカード。

馬「うそーん…」

(37) 担当:細見
有川、トイレから勢いよく出てくる。

川「ちょっと、自由さん!」
馬「何?」
川「トイレ、ビチャビチャになってたじゃないですか!」
馬「え?」

有馬、ゆっくりと自分の下半身を見る。
ビチャビチャに濡れている。

馬「うそーん…」

暗転

(38) 担当:細見
場所が変わって有馬のアパート前。
有馬はジャージのズボンをはいている。

馬「ほんま…情けないわ…」

深いため息をつきながら、ふと郵便ポストに目をやると、封筒が投函されている。

馬「なんや…」

有馬、ポストから封筒を取り出す。
差出人の名前は書かれていない。

(39) 担当:細見
有馬、首を傾げながら部屋に入る。

有馬の部屋。
あり得ないほど綺麗に整頓されており、ヒルトンホテルのフレグランスが微かに香る。
机の上には季節の花まで飾ってある。
驚く有馬。慌てて部屋の表札を確認するが、部屋は間違っていない。

馬「わし…できる子やったんやな…」

(40) 担当:細見
有馬、深く考えるのをやめ、ベッドに腰掛ける。
部屋の壁には「友情・努力・勝利」と書かれた色紙が飾られている。しばらくそれを見つめて

馬「わしが書いたんやな。うん、そうや」

と、独言て封筒を開け、中から手紙を取り出す。

(41) 担当:細見
馬「えーと…先日お約束した通り、劇場をお譲りいたします…老朽化が激しい建物ですが、大切にお使いいただければと思います。お渡しした鍵で扉は開きます。何卒、貴方様の夢、そして、私の夢が成就致しますことを願います…なんじゃこれ?」

(42) 担当:細見
有馬、封筒を逆さにして何か入っていないかと確かめるが、何も入っていない。
ふと、背中に何か重みを感じる。

馬「うわっ!」

慌てて振り払うがそこには何もない。
青ざめる有馬。

(43) 担当:細見
馬「とりあえず…もう寝よ…」

有馬、いつものように服を全て脱いで裸で布団に入る。
床に投げ捨てられたジャージのポケットから、ネジがこぼれ落ちて床に転がる。

暗闇の中、テレビがひとりでに点く。
画面には大きなリムジン。
ドアを開け、中から黒づくめの男が出てくる。

(44) 担当:瓜生
男、画面に近づき、こちら側に手を差し出す
手のひらが画面に触れたと同時に
テレビ画面から男の手が、現れる
そのまま肩、頭、もう一方の手、銅、と
男はテレビから部屋に入る

男、有馬の部屋に立ち尽くす
黒い帽子を取り、黒いマスクを脱ぎ、黒いコートを脱ぐ
沈黙

(45) 担当:瓜生
男、床に転がったネジを拾い見つめ
シャツの胸ポケットに入れる
台所に向かい、流しにあったグラスを手に取り
水道からグラスに水を注ぎ一気に飲み干す

空いたグラスに、ズボンの右ポケットから大量のネジを出し
静かに流し入れる
予め、グラスにネジが入っていたかのように

(46) 担当:瓜生
男、冷蔵庫を開けて、中を凝視する
沈黙
納豆のパックを取り出し、冷蔵庫を閉める
流しから陶器の器と箸を取りだし、器に納豆をあける
20回混ぜる 反対まわしに20回
タレとカラシを丁寧に入れる
30回混ぜる 反対まわしに もう30回

男、眠っている有馬のほうへゆっくり歩く

(47) 担当:瓜生
男、かき混ぜた納豆を静かに 五月雨のように
有馬の寝顔にのせていく
鼻の穴を塞がないように すべての納豆を有馬の顔に乗せ
男、流しに戻り、器と箸をしずかに置く
流しに置いた器に、ポケットから出した大量のネジを流し込む
まるで、最初からその器の中にあったかのように

(48) 担当:瓜生
男、ネジの入ったグラスと器を見つめる
沈黙

有馬は寝ている 
熟睡
顔に乗せられた納豆がひんやり心地よく、吐息を漏らす

(49) 担当:有川
時が静かに流れる。
有馬の顔面上の納豆が、静かに鼻や口を塞いでゆく。

有馬、呼吸が止まる。

間。

やがて…

馬「…ぶっはー!」

飛び起きる、有馬。

馬「ゲホッゴホッゲェー!」

のたうちまわる、有馬。

馬「くっさ!!」

状況を把握出来ず、パニックの、有馬。

(50) 担当:有川
馬「な…なんじゃコリャー!」

ジーパン刑事、殉職シーンを彷彿とさせる、有馬。
やっとの思いでキッチンへたどり着き、顔を水で洗い流そうとするが、目に激痛が…

馬「痛っ!いたたたたっ!」

悶絶する、有馬。

男「カラシが目に染みるかい?」
馬「!!…だ、誰や?」

(51) 担当:有川
男「細見です」
馬「嘘つけ!…声がちゃうわ!」
男「静かにしろ」
馬「くそっ…目が…」

カラシが目に入り、よく見えない、有馬。
照明の加減で、客席からも男の顔は判然としない。

馬「何や?泥棒か?人の家に勝手に…ゲホッゴホッゲェ…」

咳が止まらなくなる、有馬。

(52) 担当:有川
男「まあ、落ち着けよ」

有馬、咳を止めようと…グラスに水を汲み、一気に飲む。が、グラスの中には大量のネジが…

馬「ぶっはー!」

ネジを噴水の如く吹き出す、有馬。

馬「なんじゃコリャー!!」

高らかに笑いながら拍手する、男。

男「素晴らしい!…R1準優勝!」

(53) 担当:有川
馬「やかまし!…芸ちゃうわ!…更に言えば、優勝させんかい!」
男「ネジの味は、いかがかな?」
馬「あ?」

自分が吹き出し床に散乱したモノを拾い確認する、有馬。

馬「な、何や?ネジ?」
男「海印だよ」
馬「?…お前、誰や?」
男「(答えず)相談したい事がある」

(54) 担当:有川
馬「…相談?」
男「(突然関西弁)ウチのオカンがね、好きな朝ご飯があるらしいんやけど、その名前を忘れたらしくてね…
特徴を言うから、その食べ物が何か、一緒に考えてくれるか?」
馬「…は?」
男「オカンが言うには、その食べ物は…小さくて、螺旋状の溝があって…」

(55) 担当:有川
馬「…ほう(無表情)」
男「頭のところに、+とか−とか彫ってあって…」
馬「それ食べ物と違うな」

間。

男「いや、俺もそう思うてんけどな、オカンが言うには、その食べ物はドライバーや六角レンチでこう…」
馬「コレやろ?(男にネジを差し出す)…食べてみるか?」

(56) 担当:有川
男「…でな、オトンが言うには…」
馬「もうええわ!」
男「どうも有難うございましたー」

男、一礼。ハケようとする。

馬「待てや!」
男「ヒントは以上だ」
馬「なんやて?」
男「(ネジの器を手に)この鍵を使って、見事劇場まで辿り着くんだ!さすれば…M1優勝だ!」

(57) 担当:有川
馬「お前さっきから何を…」
男「あばよ!」
馬「おい!」

男、テレビの中へ飛び込むと、リムジンに乗り込み走り去ってゆく。

馬「おーい!」

テレビの明かりに照らされ呆然とする、有馬。

馬「…うそーん」

よく見えない目を擦りつつ…

馬「…消えた?…え?…夢?」

(58) 担当:有川
有馬、男が脱ぎ捨てた黒いコートを拾い上げる。

馬「…夢?」

(テレビ画面の中で)男が徒歩で戻って来る。

男「追伸」
馬「うわっ!」
男「この件に関して、当局は一切関知しない。尚、放送後、このテレビは自動的に消滅する」

テレビの電源、プツリと切れる。

暗転。

(59) 担当:有川
暗闇の中。
一人残される、有馬。
再び、静寂が訪れる。

間。

馬(声)「…てか…どっからどこまでが…夢?」

間。

爆発音。

(60) 担当:有馬
「うぇー、ぎぅ」
「ぐぇふぉっ…げふぉ」
等々
むせる声やうめき声が聞こえる

煙がもうもうと立ちこめる中
うっすらと4人の男の姿

男1「ま、窓…窓!」
男2「電…明かりを…」
男3「に…にがっ…」
男1「どこ!窓!」
男たち、窓や明かりを探して右往左往している

(61) 担当:有馬
そのうちに
「んがぁ!」
という声と共に、窓が開き
明かりが点く

4人の姿が鮮明になっていく

激しい息づかいの男たち

その顔は
先程の爆発のせいなのだろう
煤か何かで真っ黒である

素顔が判らぬほど
真っ黒である

着ているモノはそうでもないのに
顔は真っ黒である

(62) 担当:有馬
爆発のせいなのだろう
髪の毛が逆立った男たち

しばし息を整え
顔を見合わせる

男3「だ、だからデカ過ぎるって言ったんだよっ!」
男2「あ…マコっちゃん…なの?」
男3「え?」
男2「顔が…真っ黒だから…(笑)」
男3(川)「え?…瓜君?…てか全員真っ黒だよ!」

(63) 担当:有馬
男2(瓜)「そうか…(男1と男4を見比べて)細見君は…?」
男1(細)「僕です…」

有川、瓜生、細見、男4を見る

川「自由さん、言ったでしょあんなデカイのは無理だって」
男4「……」

細「でも…おかしいな」
瓜「ん?」
細「いくらデカくたって、あの程度で爆発します?」

(64) 担当:有馬
川「したんだよ!事実したじゃん!」
瓜「うん、あれはちょっと度が過ぎたっていうか…」
細「うーん…(男4に)有馬さん、あれは……ん?」

3人、あらためて男4を見る

川「自由さん…」
瓜「…じゃない…」

男4、タオルか何かで顔を拭う

真っ黒は落ちない

細「誰だ?」

(65) 担当:生津
男4「こんばんは、クンタ キンテです」
一同「・・・」
男4「ビル コスビーです」
一同「・・・」
男4「サミー デイヴィス ジュ・・・」
有川「もうやめろよ!」
瓜生「生津くんか」
有川「分かりづらいんだよ」

細、瓜、川、タオルで顔を拭い、それぞれの顔を確認する。

(66) 担当:生津
細見「あれ、有馬さんは?」
生津「一緒じゃなかったですか?」
瓜生「うん、どこ行ったのかな」
生津「そうだ有馬さん一回刺された事あるらしいんで、今度刺されるとヤバイっつってました」
有川「ああ!アナシラフィキー・・・」
瓜生「アナフィラキシー・ショック」

(67) 担当:生津
細見「黒い物を狙うって言いますよね」
瓜生「あー、有馬さん今日も黒づくめだった」
有川「つうか生津っち顔」
細見「狙われる」
生津「!・・・ちょっと洗ってきます」

生津退場。

有川「・・・しかし駆除の仕方が爆破ってすごいな」
瓜生「さすがスズメバチ」

(68) 担当:生津
細見「いやでも良いですね、この劇場」
瓜生「うん」
有川「俺も好きだなぁ。今時ないもんね」

目の前には文明開化の影響が色濃いレトロモダンな劇場。埃をかぶっているが、ステージ、壁、柱、客席などそれぞれ凝ったデザインになっていて、「古き良き時代」を思わせる。

(69) 担当:生津
瓜生「よく残ってたよねぇ」
細見「キャパどんくらいかな」
有川「スズナリくらい?」
瓜生「丁度良いんじゃない」
有川「うん」

有馬、入ってくる。

有馬「ごめんごめん」
細見「いやめっちゃ良いじゃないですか、ここ」
有馬「そやろ!あれ、巣は」

(70) 担当:生津
細「見事に吹き飛びましたよ」
馬「ああ、良かった」
瓜「ここトイレとかもちゃんとあるの?」
馬「うん、ちょっと修理せなあかん思うけど。なんか身内とか知り合い招待して、昔ここで芝居やってたらしいで」
川「え、一般営業してた訳じゃないの?」

(71) 担当:生津
馬「うん、道楽やて。その、なんとかさん言う・・・名前忘れたけど、芝居好きのお嬢がおってん」
細「すげえな」
瓜「昔の金持ちは違うね」
川「道楽でこれ作るか」

四人、劇場を見渡す。静かな感動。

(72) 担当:海部
馬「やってみいひんか、俺らで」
瓜「俺らでって?」
川「やりましょうよ!」
細「マジですか?」
馬「マジや、今を持ってこの劇場をわしらの持ち小屋とする!」
細「賃貸料、維持費、その他諸々はどうするんですか!」
馬「なんとかなる!」

瓜・川・細「・・・。」

(73) 担当:海部
有馬、右拳をグイッと出す。パッと開くと掌にはネジ。

馬「ほれ、みんなも‼︎」

三人「は?」と言う顔で訳も判らず有馬と同じく拳を突き出し開くと、それぞれの掌にはやはりネジが。

瓜「ネジ⁉︎」
細「いつのまに⁉︎」
川「怖えーー‼︎」

(74) 担当:海部
馬「な、俺たちは選ばれし者たちや」

そこに生津、ダッシュで戻ってきて

生「そうです!皆さんは選ばれたのです!あたかも八犬伝の八犬士のごとく!」
細「八犬士て、4人しか」
生「それは追々」
川「やろうよ!俺たちは選ばれたんだよ!」

(75) 担当:海部
瓜「うん。劇場運営から興行までね」
馬「やるしかない!このネジがその証や」
川「そ、そうだよ!しかも海印の。これはもう運命としか考えられない!」
細「お金はどうするんですか!」
馬「なんとかなる‼︎なんとかなるんやー‼︎」

(76) 担当:海部
有馬のシャウトがキッカケかの様に舞台上にピンスポ。
初老の黒ずくめの男が照らし出される。眼光鋭く5人を見据えるその男。
奇妙な太鼓の音、鳴り始める。
初老の男、その奇妙な太鼓の音に合わせて奇妙な、なんとも言えない奇妙な舞踏を踊り始める。

(77) 担当:細見
踊り狂う初老の男。
その奇妙な踊りをじっと見つめる5人。
やがて太鼓の音が止むと、男の舞踏も終わる。
しばらくの沈黙。
男は動かない。
痺れを切らした有馬、

馬「…あの」

どこからともなく声が聞こえてくる。

声「次の曲を選ぶドン」
細「太鼓の達人かよ!」

(78) 担当:細見
馬「あの、すんません!」
男「なにか?」

男がゆっくりと5人の元に近づく。
驚く5人。

5人「陰山さん?」
陰「いかにも私が陰山。演劇界の隠れた重鎮。その名も陰山泰」
川「何してんすか、こんなとこで」
陰「何?激しく踊っていたんだが」
川「いや、そうじゃなくて」

(79) 担当:細見
陰山、5人の顔をまじまじと見て

陰「黒いな」
細「今、ハチの駆除やってたんです」
陰「何?」
細「だから、ハチ」

陰山、激しく動揺する。

細「え?」

陰山、地面を転がるように悶える。

瓜「陰山さん、どうしたの?」
川「さあ」

(80) 担当:細見
すると、舞台袖から何者かが飛び出してくる。
その昔、「ゆるキャラブーム」を牽引した、あの「ねば~る君」の気ぐるみをきており、
手には太鼓のバチを持っている。

ね「あかん!」
細「ねば~る君?」

ねば~る君、悶える陰山を抱きかかえ

ね「えらいこっちゃがな!」

(81) 担当:細見
唖然とする5人。

ね「誰か、あれ持ってへん?」
川「あれ?」
ね「あれやあれ、名前は忘れたんやけど、あのくっさいやつ」
川「ああ」

有川、おもむろに靴下を脱ぎ、渡す。

ね「そうそう、これこれ」

ねば~る君、靴下の匂いを嗅いで

(82) 担当:細見
ね「う~ん、樽生熟成。ちゃうわボケ!殺すぞ!」
川「このゆるきゃら、メチャクチャキレるな」
瓜「ゆるくないね」
ね「あれやあれ、ほら、めっちゃ粘るやつ」
馬「(みんなに)ボケた方がええんかな」
細「てか、納豆でしょ。そんなもんあるわけないでしょ」

(83) 担当:細見
生「あ、俺、ちょうど持ってますよ」

生津、懐から納豆パックを取り出す。

川「まじでかー」
瓜「生津君てそういうことあるよね」

ねば~る君、納豆パックをあけると、陰山の顔に塗りたくる。

馬「うわ!塗った!」

納豆を塗られた陰山、やがて落ち着きを取り戻す。

(84) 担当:細見
ね「良かった…」
川「てかお前、ねば~る君のくせに納豆ぐらいもっとけよ」
ね「は?あほかお前、納豆持ち歩いとる人間がどこにおんねん」
馬「いたんだけどね」
瓜「生津君てそういうことあるよね」
細「メチャクチャ関西弁だな」
馬「どっかで聞いたことある声やな」

(85) 担当:細見
ねば~る君、ゆっくり立ち上がると

ね「なあ」
細「はい」
ね「今日、なんか、暑くない?」
細「でしょうね」
ね「あ、そうか」

ねば~る君、気ぐるみをもぞもぞと脱ぎだす。
小柄な男が現れる。

馬「あ」
な「なんや」
馬「ふくちゃん」

(86) 担当:細見
気ぐるみの中から現れたのは、福本伸一。
しかしその顔にはジョーカーのメイクが施されている。
かなり長い時間気ぐるみを着ていたのか、
汗だくでメイクもドロドロになっている。

福「いや、ほんま、服着よう思たら、間違えて気ぐるみきてもーたわ」
馬「なんでやねん」

(87) 担当:瓜生
福本、握った手のひらを有馬の前で開く
福「はい」
手のひらにネジ
馬「福ちゃん!」

全員、福本のネジを見つめる

瓜「まただ」
川「まじでか」

陰山、顔に納豆をのせ倒れたまま
陰「福ちゃん、、俺もだよ」

(88) 担当:瓜生
陰山 手のひらのネジを見せる
川「あ、喋った」
瓜「陰山さん、大丈夫ですか?」
陰「・・」
瓜「陰山さん?」
馬「よく見つけたなー」
細「ほんとですね」
福本の着ぐるみに興味津々
福「えへへ」
有馬 福本 細見、着ぐるみに夢中。
瓜生 手のひらのネジを見つめ考え込んでいる

(89) 担当:瓜生
川「それなんすか?」
細「知らないの?ねばーるくん」
川「知らない」
福「ねばーるくんって言うんや」
細「知らなかったんですか?」

https://nebaarukun.info/?p=4580

瓜「あのさ、ちょっと整理させてもらっていいですか?」

(90) 担当:瓜生
瓜「えっと、あれ?しげは?なんでいないんだっけ?
  ま、いいや。
  えっとまず。まずですね。
  これ、(手のひらのネジ)これなんですか?
  陰山さんも福本さんも持ってて
  なんで生津くんは持ってないの?
  福本さんの着ぐるみのことは」
細「ねばーるくん」

(91) 担当:瓜生
瓜「うん。ねばーるくんのことは、まぁいいや。
  陰山さんのダンスのことも、、いいです。
  スルーします。あとにします。
  有馬さん、この劇場のことです。
  ここの話、これからどうするかって話、
  きちんとしてもらってもいいですか?」

(92) 担当:瓜生
瓜「さっきスルーしたけど『道楽で始めた、芝居好きの、名前を忘れたお嬢』?って、誰ですか?
その女性から有馬さんが、この劇場を譲り受けたってことですか? 名前を忘れたお嬢、って だいたい どういうことですか?
有馬さん、劇場の話、してください」
一同、有馬を見る。

(93) 担当:有川
馬「いや…どう説明したらいいか…その女はな…ねぇ、作ってよ、作ってよ言うて…待ってるからねって…おぶさってきたんや」
瓜「…は?」

一同、ドン引き。

川「なに言ってんだろ?」
生「酔っぱらい?」
細「いやシラフだと思うけど」
瓜「…有馬さん、ふざけてるの?」

(94) 担当:有川
馬「大真面目やて!ワシも最初は夢かと思うたんやけど」
瓜「劇場については?」
馬「手紙がきたんや!劇場を譲るて…夢が叶うて」
瓜「手紙…誰から?」
馬「わからんけど…住所が書いてあったから色々調べて…ホンマやて!(28)〜(30)あと(41)あたりを参照してや!」

(95) 担当:有川
一同、更にドン引き。

川「なに言ってんだろ?」
生「何の数字?」
細「とうとうアレかな?俺達の知らない世界へいってしまったかな」
生「知らない世界って…」
川「羨ましい!」
細「何で?」
陰「アリジ…(有馬自由の略。親しみを込めて)」
生「有馬さん…forever!」

(96) 担当:有川
瓜「その…おぶさってきた女?と手紙の差出人は同一人物なの?」
馬「その女は…」
福「その女は!」
馬「え?」
福「その女は美女かぁ?」
馬「福ちゃん?」
福「美女なんかぁ!?」

福本、再び着ぐるみを装着。

馬「どしたん?」
福「ウオオオォー!」

福本、伸びる。

(97) 担当:有川
細「ねば〜るくん!」

福本、頭が天井に突き刺さる。ドカドカ落ちてくる照明機材。

福「美女オンブーー!」
川「怒り狂ってるぞ!」

福本、下半身だけムーンウォーク。

細「ねば〜るくん!キャラ間違ってる!」

カオス。
逃げまどう人々。
福本、破壊の限りを尽くす。

(98) 担当:有川
阿鼻叫喚。
ねば〜るくんの惨劇を隠すように舞台上にスクリーンが降りてくる。
映し出されるリムジンと、海部。
…が、またも口パク。声が聞こえない。

川「なんだよ?こんな時にまたコイツかよ」
瓜「何か言ってる…細見くん、得意の読唇術で…」
細「断る!」
瓜「え?」

(99) 担当:有川
細「疲れる!断る!」
川「じゃあどうすんの?」
細「スルーで!」
川「ギャース!」

突然、画面左上にワイプが…その中に山口シゲ登場。

山「説明しよう!」
一同「!!」
陰「…シゲ?」
瓜「何やってんの?」
川「何故ワイプに…てか、コイツとシゲはグルって事か?」

(100) 担当:有川
馬「そう言や最近、シゲの様子…おかしかったわ」
細「おかしいって?」
馬「細見くんの名前出しただけで、号泣したりしとった」
細「気色悪っ!」
馬「明らかに挙動不審やった…酔おとるだけかと思てたけど…」
陰「シゲ…」

海部の口パクに合わせて、シゲが話し始める。

(101) 担当:有川
山「皆さーん!『道楽で始めた、芝居好きの、名前を忘れたお嬢』の正体は…演出家です!」
一同「!」
馬「演出家?」
山「そして皆さんの手の中にある海印のネジ…これは言わば招待状!」
生「あの…じゃあネジが無い人は…」
山「これよりオーディションを開催します!」

(102) 担当:有馬
男たち「オーディション!?」

音楽!

M・ジャクソン「ビートイット」みたいなのが流れる

音楽と共にゆっくりとスクリーンが上がっていく

ねばーる君の惨劇の跡…

壁も窓ない
瓦礫が散乱した場所

音楽止む

静寂

しばし呆然とする男たち

(103) 担当:有馬
瓜「…演出家?…オーディション…って…」
川「(掌のネジを見て)…招待状…?」
細「この劇場に出演するための…」
瓜「…オーディションってこと?」
川「え!俺たち、オーディション受けなきゃなんないの?」

瓜「だってここは…」

(104) 担当:有馬
瓜「この劇場は、譲り受けた…てか、運営を任されたんじゃないの?」
生「そ、そうですよ、だからでっかい蜂の巣まで退治して」
川「なのにオーディション?」
生「俺、ネジ持ってないし」
細「有馬さん」

馬「…ん…いや…」

陰「しょうがないな」

男たち「え?」

(105) 担当:有馬
陰「この年になっても、まだオーディションかぁ」

と明るく身体をぐるんぐるん動かし始める

瓜「陰山さん…」
陰「何やんの?身体表現?それとも即興演技かな?」

さらに身体をぐるんぐるん

と、そこへ多摩川を散歩するような出で立ちの福本、
望遠鏡を持って現れる

(106) 担当:有馬
馬「福ちゃん?」

福本、空を見上げ方角を確かめると望遠鏡を設置し始める

川「何?」
瓜「福本さん?」
福「ん?うん、時間やからね」
細「…時間?」
福「そろそろ明けの明星がね…」

福本、設置作業を続ける

生「明けの…」
川「何?何?」
陰「ほう、金星やね」

(107) 担当:有馬
そこへ小柄な男が現れる
男の胸にはうっすらと
「ONEOR8」の文字(まあ、無くてもいいんですが)

瓜「え…」
細「誰?」

小柄な男は無言で瓦礫の移動を始める

瓜「あの…どなたです?」

小柄な男は答えず瓦礫の選別を始めた

生「何を…」
川「撤去…するの?…」

(108) 担当:有馬
小柄な男、選別した瓦礫を組み立て始める

慎重にパーツを選び、瓦礫と瓦礫の接着面を確認しながら…

その作業をただ見守るしかない男たち

小柄な男、瓦礫を積み上げ、安定を確かめると
固定のための部品と道具を取り出す

(109) 担当:有馬
小柄な男、瓦礫の接着面と部品を確かめると

福本に近づき

小「おい」

望遠鏡をパソコンに接続したり、作業をしていた福本

福「ん」

小柄な男、手を突き出し

小「ネジ」
福「なんや?」
小「持ってんだろ」

瓜、川たち「…!」

福本、ポケットからネジを取り出す

(110) 担当:有馬
福「うん…でもこれは、違うんや」
小「違う?」
福「このネジは、ここ」

と、望遠鏡の脚を指し

福「ここを固定するやつやねん」
小「……」
福「すまんな」

福本、小柄な男に微笑み、
自分の作業を続ける

小柄な男、瓜生たちの方をに手を突き出し

小「ネジ」

(111) 担当:有馬
男たち、思わず自分のネジを手に取る

小「おい(こっちに出せよ)」

固まる男たち

小「ネジ」
男たち「…」
小「やるんだろ、劇場を」

男たち「…!」

ネジを持ってない生津、
思わず

生「福本さん!」
福「なんや」
生「こ、これ、この人は…な、誰なんです」

(112) 担当:有馬
川「このネジって…」
細「…福本さん」
瓜「何か知ってるんですね」

福本、作業の手を止め

福「渡したらエエんちゃう?」
瓜「え?」
福「君らのネジ」

福本、積み上げられた瓦礫の方を見て

福「ほら、そのネジでしっかり締めたら、頑丈なエエもんできるやん」

(113) 担当:福本
馬「えっ?!福ちゃん、何を知ってんねん!教えてえや!」
福「………」
川「ふくもっさん!」
福「………」
瓜「誰なんです?この小さい人」
福「………」
生「なんで俺だけネジ持ってないんすか?」
福「………」
細「福本さん!」
馬「福ちゃん!」

(114) 担当:福本
福本、軽くため息。陰山を見 る。陰山、優しく微笑む。

福「……分かった。知ってることだけみんなに教えたるわ」

福本、静かに語り出す。

福「この小さい男は誰なんか。生津君だけなんでネジを持ってないんか。……そもそも、なんでネジなんか」

(115) 担当:福本
一同、福本の話しに集中する。

福「……生津君」
生「はい!」
福「ネジっていつ頃発明されたか知ってる?」
生「えっ!いや、知らないです」
福「ほな、有川君は?」
川「いやぁ……
福「誰か知ってる人いる?」

福本、皆を見渡す。
誰も答えることができない。

(116) 担当:福本
福「…紀元前400年頃の古代ギリシャの学者が発明したと言われてんねん」
生「え、そんな前なんすか?」
福「古代ギリシャのアルキタスという学者が発明したっていう説とアポロニウスという学者が発明したっていう説があるねん。アルキメデスって説もあるけど」

(117) 担当:福本

馬「福ちゃん、ようそんなこと知っとんな〜」

福本、軽く微笑み、陰山を見る。陰山、優しく微笑み返す。

福「ほな、ネジがいつ日本に伝わったか知ってる人いる?瓜生君、どう?」
瓜「……う〜ん」
福「細見君、もしかして知ってるんちゃう?」
細「えっとぉ……」

(118) 担当:福本
福本、陰山を見る。
陰山、軽くうなづく。

福「1543年に種子島に漂着したポルトガル人が持ってた火縄銃と一緒に伝わったと言われてんねん」

一同、口々に「へ〜っ」と感心する。

福「みんな、自分が持ってるネジをもう一回じっくり眺めてみ」

(119) 担当:福本
男たち、自分の手の中のネジを見つめる。ネジを持っていない生津は軽く動揺する。

福「それだけの歴史があるもんやと思うと、特別なものに見えてけーへん?」
馬「……ほんまや」
福「なっ」

皆それぞれ手の中のネジをキラキラした目で見つめる。

(120) 担当:福本
生「……有馬さん、ちょっと見せてもらってもいいですか?」
馬「あかん」
生「有川さん」
川「やだ」

男たち、誰も生津にネジを渡さない。寂しげな生津。

福本、陰山、その様子を微笑みながら眺めている。黙々と作業を続ける小柄な男も心なしか微笑んでいるようだ。

(121) 担当:福本
福「ほな、最後にみんなに質問するで。ここが一番大事なポイントやねん。集中してな。……ええかな。」

一同、福本の言葉に集中する。

福「……ネジは英語でなんていう?」
川「えっ!」
馬「お〜っ!」
細「考えたことなかったぁ」
瓜「えーっ、なんだろ」

(122) 担当:福本
福本、静かに語り出す。

福「……エス……シー……アール……イー……ダブリュー」
一同「……」 
福「…………スクリュー」

一同、口々に「お〜っ」。

福「複数やと…………スクリューズ」

一同、口々に「あ〜っ」。

(123) 担当:福本
川「あっ!」
細「なに?」
川「だって、スクリュードライバーっていいますもんね!!」
瓜「そっかあ!!」
馬「せや!せや!!」
細「だよねー!!」

一同、かなり盛り上がる。

(124) 担当:福本
福「……以上。」
馬「ん?」
福「以上!」
馬「ん?ん?どういうこと?えっ、えっ、なにが?なにが?」
福「せやから、以上。これ以上は知らん」
川「えーっ!ちょっと意味わかんないすけどぉ」
福「……」
細「えっ、いや、福本さん、ちょ、ちょっといいですか?」

(125) 担当:福本
細見、手をあげる。

福「はい、細見くん、どうぞ」
細「結局、この小さい人は誰なんですか?」
福「知らん」
細「えーっ!」
生「えっとぉ、俺もちょっといいですか?」
福「はい、生津君、どうぞ」
生「なんで俺だけネジ持ってないんですか?」
福「知らん」

(126) 担当:福本
馬「えっ?えっ?福ちゃん、ほんで結局このネジはなんなん?」
福「……招待状ちゃうの?」
馬「や、それは知ってんねん」
福「せやから、それは古代ギリシャでな」
川「それさっき聞きました!」
福「種子島にな、スクリューがな」
馬「それはもうええねん!」

(127) 担当:福本
福「(ちょっとキレ気味になって)だって、さっき言うたやんか!」
細「なにを?」
福「知ってることだけ教えたるって。これ以上、なんも知らんし。ていうか、僕が知りたいし。ていうか、この小さい人は誰やの?
馬「それはわしらが聞いとんねん!」

(128) 担当:福本
瓜「……ていうかぁ、陰山さんはなんでさっきから意味ありげにニッコリしたり、うなずいたりしてたんですか?」
陰「いや〜、みんな仲いいな〜と思って」
川「マジデカ〜!!」
福「ほら、陰山さん、ええ人やから」

(129) 担当:福本
福「みんな、仲良くしよ。あっ!みんなで一緒に歌とか歌おか!?」
馬「歌うかーい!」

その時、小柄な男が作業の手を止め、おもむろに。

小「あのさあ、ちょっといいかなあ…」

(130)  担当:細見
皆、その小柄な男に注目する。
少し汗ばんでいるのか、シャツが透けている。

小「みんなさっきから、俺のこと他人みたいな扱いしてるけど」
馬「いや、だって他人やん」
小「嘘だろ」
馬「え?」
小「俺のこと、わからないの?」

(131) 担当:細見
細「さあ」
川「誰」
小「まぢかよ!俺だよ俺!」
瓜「なに、気持ち悪いな」
馬「はじめましてやしな」
小「じゃあ…これ聞いたら思い出すだろ…えーと…俺はハイボールを家で飲みすぎると、テーブルを布団にしてそのまま寝ちゃいます」
生「何いってんの?」

(132) 担当:細見
小「じゃあ…千秋楽のダブルコールで挨拶する時、いつも泣いちゃいます」
馬「泣き虫なんだ」
小「酔っ払って稽古場で朝まで飲むと、大体最後は裸になります」
瓜「通報されるよ」
小「俺のガンマ値、だいたい400」
川「まじでかー」
小「俺は基本的に、痔ー」

(133) 担当:細見
その時、スクリーンに映し出された山口が

山「ちょっと!」
川「え?」
山「僕たちのこと、忘れてません?」
生「そういえば」
細「忘れてた」
小「おい、お前、俺が今話してんだぞ!邪魔すんな!」
山「あれ?あなたは僕のことわかりませんか?」
小「は?」

(134) 担当:細見
山「なるほど…あなたは僕を知らない…でも、僕はあなたを知っています」
小「は?」
馬「シゲ、誰やねん、この小柄なイケメンは」
小「イケメンとか、よせよ(ポッ)」
山「それから、細見さん」
細「なに?」
山「生きてたんですね…この世界線では…」
細「は?」

(135) 担当:細見
川「何いってんだよお前、わけわかんないよ」

いきなり歌い出す陰山。

馬「どないしたんですか急に」
陰「だってオーディションやるんだろ?早くやろうよ」
川「いや、その前に色々話がわかんなくなってるんで、ちょっと整理しません?」

(136) 担当:細見
陰「いいんだってそんなのは!芝居やろうよ芝居!芝居!俺もうやりたくてやりたくて体が…」
福「陰山さん、歌やったら俺も歌いますわ!」

陰山、福本、見事なハーモニーを奏でる。
それに興奮した陰山、再び悶始める。
生津、そっと懐から新しい納豆パックを取り出す。

(137) 担当:細見
馬「なんやもう…わけがわからん」
小「そろそろ俺が誰か思い出してくれたかな」
川「え?」
小「このままだと、ただ恥ずかしいエピソードを言わされただけになっちゃうんだけど」
川「お前が勝手に言ったんだろ」
細「なあ、シゲ。俺が生きてたってどういうこと?」

(138) 担当:細見
山「それはおいおい説明します」
細「いや、気になるだろ。世界線て何?あれか、シュタインズゲート?お前も好きなの?俺もすごく好き」
山「そろそろ海部さんにも喋ってもらっていいですか。さっきからずーっと待ちぼうけなんで」
馬「え、喋れるの?」

(139) 担当:細見
山「なぜみなさんがここに集められたのか。謎の女性演出家とは。そして、この海印のネジのこと」
小「その前にみんな、俺のこと思い出してよ、俺はー」

その時、望遠鏡を覗いていた福本が

福「なあみんな、ちょっとこれ見てくれ」
川「え?」

皆、望遠鏡の元に集まる。

(140) 担当:細見
馬「ふくちゃん、悪いけど星なんか見てる場合ちゃうねん」
福「ええから見てみ」

細見、望遠鏡を覗いて

細「そういえばこうやって子供の頃、よく月とか見たなー…あれ?」
瓜「どうしたの?」

細見、ゆっくりと望遠鏡から目を離し

細「月が…2つある」

(141) 担当:瓜生
瓜「月が?ふたつ?」
と言いながら望遠鏡を覗き
瓜「…違う!違うよ、あれは、トウタイだよ。
 ふたつどころか、ほら見て。まだまだたくさんあるじゃん。」
望遠鏡から顔を外し天井を見上げる
瓜「すごい。すごいね。あれ、劇場の照明(装置)だよ。すごい高い天井だよ。」

(142) 担当:瓜生
福「瓜生くん!そのとおり!この劇場はものすごく天井が高くなってるんだ。世界一天井の高い劇場なんだ」
川「まじでかーすげーー」
集まっていた男たち天井を見上げる。

小「月はね。月は、そもそもふたつあるんだよ」
遠くで作業していた小さい男が早口で一気に喋り出す。

(143) 担当:瓜生
小(作業を続けながら)「月って、みんな、夜空の、まるい、星のことを思い浮かべるじゃん?月は1つだよね?って聞かれたらみんな、うんっていうじゃん?
違うんだよ。常識を覆す驚きの事実がさ」
川「お前、だれだよ!」
小「・・・最新の研究により明らかになったんだ!」

沈黙

(144) 担当:瓜生
小(瓦礫を積み上げながら)「なんと、地球の周りには月が2つ、いや2つ以上の月が存在するんだ!」
福「だから、あれは(劇場の)照明やって」
小(無視して)「ミニムーン。ミニムーンだって。」
細「ミニムーン?シュタインズゲートは?」
福「シュタインズゲート?」

(145) 担当:瓜生
◾︎同時に
◾︎小「シュタインズゲート?」
◾︎陰「はやくオーディションやろうよううう」
◾︎細「シゲ!シュタインズゲートは?」
小「ミニ・ムーンは地球の周回軌道を回ってその後は太陽を、、」
瓜「しずかにしてください!!!」
沈黙
瓜「みなさん!ちょっと!・・・

(146) 担当:瓜生
瓜「話を、話を戻してもいいですか?!
 有馬さん、すいません、その、手紙の女性って誰?」
山「有馬さん、、、」
馬「あ?」
山「もう、、あの、、世界線のこと、話した方がいいんじゃぁないでぇしょうか、、
 ね?細見さん、、」
細「シュタインズゲート、、」

(147) 担当:瓜生
山「細見さん、、もう、シュタインズゲートでごまかすの…もう…やめ…てもいいような…」
瓜「しげちゃん、世界線ってなに?ゲーム?、、アニメ?」
川「しげ、オーディションって何だよ?」
山「えっと世界線…あれ?……海部さん?海部さんがいない…海部さん!どこ?」

(148) 担当:瓜生
テレビ画面には山口しか映っていない。
やがて小さい男が集めていた瓦礫の山が動き出す
小「おーーー」

瓦礫の山が崩れ、中から、海部剛史、登場。
一同驚く

海「みなさん、よく集まってくれました」
(身体は海部だが声は女性。その声は有馬が遭遇した女の声)

(149) 担当:瓜生
川「え?かいべっち?」
海「わたしはカイベではありません」
川「え?どういうこと?」
海「わたしはカイベの身体を借りて、みなさんとお話ししています。有馬さん」
馬「あ?」
海「お久しぶりね。よくみなさんを集めてくださいました」
川「え?どういうこと?」

(150) 担当:瓜生
瓜「有馬さん、この声の人が?劇場の人?」
馬「わからん、そもそもこんな顔じゃないし」
海「わたしはこの顔と身体を借りて、あなたたちとお話ししています。
……大輔、げんきそうね。会いたかったわ」
沈黙
細「母さん…」
川「母さん?」
小「ミニムーン」
海「オンダ!」

(151) 担当:瓜生
恩(小改め)「月子さん、、、みんな!こいつ(海部)は月子さんのミニムーンだよ。
 月子さんの、もうひとつの月だよ。」
川「なに言ってんだよ、こいつ」
海「おだまり、まりかわ」
川「ありかわだよ」
海「さあ、みなさん、、わたしにネジを、ネジをこちらに、、」

(152) 担当:有川
馬「このネジを…?」
瓜「渡せばいいの…?」
細「母さん…」
恩「ミニムーン…」
山「(モニターの中から)世界線…」
生「だから俺…ネジないんですけど…」

音楽。
有川、歌う。

川「なんだ〜コレ♪
なんだ〜コレ♪
ふっしっぎっな世界ぃぃ〜〜♪♪」

有川、踊る。

(153) 担当:有川
川「ここは〜どこ♪
アナタは〜誰♪
この手の中に〜ネジを♪
さあ!冒険の旅に出るよぉぉ〜〜♪」

ジャジャン。

福「…有川君?」
瓜「どうしちゃったの?」
細「突然、ぶっ込んできたな」
川「突然だよ!突然歌うんだよ!そういうモンなんだよ!よくわかんないけど!」

(154) 担当:有川
生「キャラ変わってますよ」
川「変えたんだよ!キャラ変!…じゃないと俺『マジデカ〜』だけになっちゃうだろ?マジデカオジサンかよ?…正直『マジデカ』の言い方、そんなにバリエーション無いし!」
海「熱くなるのはおよしなさい」
川「うるせーよ!!」

有川、泣く。

(155) 担当:有川
川「大体さ…ゲームだかアニメだか知らないけど…さっきの…シュタインなんちゃら?…って何だよ?…せめて知ってるヤツにしてくれよ!!」
瓜「そこなの?」
川「そこだよ!!」
福「知ってることだけ教えよか?」
川「結構です!!」

福本、スマホを取り出し操作する。

(156) 担当:有川
福「ニュージェネレーションの狂気による渋谷崩壊から一年後…」
川「読んでるじゃん!…福本さんも知らないんでしょ?…てか、皆んなだって知らないんでしょ??…ほら!だからさ!皆んながわかるような…」

いつの間にかハケていた陰山、再登場。
鎖のついた学ラン姿。

(157) 担当:有川
川「どうしたー!?」
陰「いや、いいなあと思って。キャラ変」
川「重ちーん!」
陰「知ってるアニメならいいんだろ?」

陰山の姿を見た一同、なんとなく落ち着かない様子。挙動不審。

川「…何だ?どうした?…なぜソワソワしている?」

一同、なんとなく着替えだす。

(158) 担当:有川
川「そうじゃないから!そういうんじゃないから!」

細見、竹を口に咥えながら麦わら帽子を被ろうか迷っている。

川「なんかもう、色々喧嘩しちゃってるから!」

着替えようとズボンをおろしていた生津、絶叫。

生「あああー!!」
川「なんだー!?ピッコロかぁ!?」

(159) 担当:有川
生津、思わずズボンを持つ手が離れ、脚が露わになる。
その脚全体には、螺旋状の紋様が…まるでスクリューのように。

一同「……!!」

驚愕。
間。

生「…なんだ?…コレ?…ネ、ネジ??」
海「やっと気付きましたね…」
生「…え!??」
海「もず」
生「きずです」

(160) 担当:有馬

麦わら帽子を被った細見
生津の脚の紋様をまじまじと見つめる

遠くから汽笛の音

海「…大輔」

細見、海部を振り返る

細「母さ…」

何か言おうとしたその時
近づいた汽笛の音が細見の言葉をかき消す

細見を残して
暗転

汽笛とともに
列車の走りすぎる音

(161) 担当:有馬
一瞬の静寂

遠くで声がする
子供の声

「大ちゃーん!」

明るくなる

波の音

どこかの海辺

「大ちゃーん!」
「どこやぁー!」
「もう帰らんと、母ちゃんに怒られるでぇ~!」
「大ちゃーん、どこ行きよるんやぁ~!?」

細見、声たちに反応することなく瓦礫の方へ

(162) 担当:有馬
細見、瓦礫をひとつひとつ動かしていく
そこへ
「おい」

細見、振り返る
恩田がいる

恩「…お前…」
細「え?」
恩「お前、豊浦小の大輔やろ」
細「…」
恩「知っとぉよ、俺の従兄弟も豊浦やし」
細「…うん…」
恩「俺のことも知っとぉやろ?」
細「知らんよ」

(163) 担当:有馬
恩「…知っとぉやろ、ほれ!」

と恩田、勇ましいポーズ

恩「知っとぉやろ?」
細「転校生?」
恩「なんでどぉ!ちゃう!ほれ!」

さらに勇ましいポーズ

細「……」
恩「…去年のー」
細「去年の」
恩「…祭のー」
細「妙恩寺の?」
恩「ちゃう!相浜神社やし!」

(164) 担当:有馬
細「あー」
恩「知っとぉやろ」
細「うん、祭は知っとぉよ」
恩「やなくて、俺!」
細「そんなん言われても…」
恩「神輿!」
細「うん、神輿…」
恩「乗りよったやろうが!」
細「俺が?」
恩「俺や!」
細「そうなん?」
恩「おう!」

と再び勇ましいポーズ

細「……」

(165) 担当:有馬
恩「リュウイチ」
細「え?」
恩「リュウイチや」
細「りゅう…いち」
恩「おう!相浜小のリュウイチや!」
細「相浜小の…」
恩「有名やろ?」
細「え?知らんよ」

恩「…お前、毎日ここ来とんやろ?」
細「え?」
恩「何しよん?」
細「…」
恩「ここで何しよんや?」

(166) 担当:有馬
細「ええやん」
恩「あかん!ここは相浜の陣地や」
細「な…いつから…」
恩「前からや、ここはずうっと…」
細「何でどぉ!!」

大音声に驚く恩田

細「勝手なこと言うなぁ!ここはなぁ…ここは…誰の陣地にもならんのんじゃ!絶対ならんのんじゃ!…ここはなぁ…!」

(167) 担当:有馬
その時

「にいちゃーん」
の声とともに、汗だくで息づかいの荒い男 (辰巳)が近づく

辰「はぁはぁ…(恩田に)兄ちゃん、ママが、はぁはぁ…ママがぁ」
細「ママ…?」
辰「ママがごっつぅ怒っとぉよ」
恩「…」
辰「はぁはぁ…ママが…ものごっつぅ…怒っとぉよ」

(168) 担当:有馬
辰「ママが(母親の真似で)『リュウイチはネギ買いに行くのに何時間かかっとんねん!こないだみたいに釣り銭ちょろまかして、しょうもない買い食いなんかしてたら、またケツ腫れ上がるまでシバキまわすど!』って兄ちゃんに言うといでって…ん?…兄ちゃん?」

恩「…」

(169) 担当:有馬
辰巳、恩田の背中をドン

恩「おふっ」

ずっと息が止まってたらしい

辰「兄ちゃん?」
恩「(息を整え、細見に)…なんでどぉ?」
細「あん?」
恩「ここは…何で誰の陣地にもならんのや?」
辰「え?兄ちゃん、ここ陣地にしよるん?」
恩「(瓦礫を指して)そこ、何が…」

(170) 担当:有馬
辰「え?兄ちゃん、アカンで、ママが言うてたで『トモアキ、ええか、よう聞きや、あそこはな、近づいたらアカンよ、近づいたらな、穴があいててな、ヒューってな、吸い込まれてまうんよ、ほんでな…」
恩「トモ」

恩田、辰巳を制する

細見、じっと瓦礫を見つめている

(171) 担当:山口
すると突然、瓦礫の穴が大きく広がり、ヒューっと音がする。

一同「!?」

辰「ホラ!兄ちゃん言わんこっちゃない!吸い込まれるでっ!」

恩田、驚きのあまり鼻の穴が最大限に大きくなり、穴の中から大きな鼻くそ達が、パラパラと落ちる。

細見、恐怖の中の二度見。

(172) 担当:山口
すると、穴の中から手が出て来た!

辰「っ手!!手が出たぁ!」

辰巳、驚きのあまり脂肪が最大限に膨らみ、洋服が破け、全裸になる。

細見、恐怖の中の二度見。

そして穴から海部とシゲが、顔を出す。

恩・辰「ぎゃーーー!」

(173) 担当:山口
山「ホラ海部さん!時代が全然違うじゃない!細見さん少年だもの!」
海「だってようわからんもん~」
細「え、なぜ僕の名を?」
山「え、どうします?」
海「細見はん!あんたの未来めっちゃヤバいで!」
細「え?」
山「いや、そんな事言っても混乱させるだけだから!」

(174) 担当:山口
細「??」
山「細見さん、僕らはアナタの未来の、だいぶ先に出会うんですけど、とりあえず今、色々あって世界線がとっても混乱しているんです」
海「シゲちゃん、時間ないで!」
山「わかってます!いいですか、細見さん!2020年に絶対芝居をして下さい!年末です!」

(175) 担当:山口
細「し、しばい?」
海「そうしないと、あんた死ぬで!」
細「えっ!」
山「細見さん、ネジ!とりあえず、ネジが目印だから!で、この場所!この場所に劇場が出来るから!ここでやるの!どんな脚本でも、絶対に芝居してください!」
海「ネジは海印でな!」
細「はい??」

(176) 担当:山口
山「ほら・・全然伝わってないよ・・てか時代が昔すぎるんだよ・・」
海「あと、あんた将来ネコ飼うで~」
山「それ、今どうでもいいから!」
母の声「大輔~、こんなところに居たの?」

細見の母、登場

海・山「つ、月子さんっ!?」

そして、二人は消えていった・・・

(177) 担当:陰山
月「お母さんよ‥‥大輔」
細「マ‥ママ?なんで?」
恩・辰には月子は見えていない。
月「あなたの使命を憶えている?」
細「えっ?突然なに?使命って?」
月「あなたがここにいるのもその為なのよ」
細「……」
月「私を助けて欲しいの」
細「えっ?!」

(178) 担当:陰山
月「私のところに来て。私を助けて欲し……」
細「助ける?」
月子の姿、消えていく。
細「ママ!待ってママ。ママ〜Do you remember the old straw hat you gave to me …」
突然歌い出す細見。
福本、陰山はその姿を見て微笑む。

(179) 担当:陰山
福「二つの月が一つになった時、それは訪れる」
細「えっ、どう言う事!?」
福「私は知っている事しか言わない」
福本、陰山に微笑みかける。
陰山、細見をジッと見つめる。
細「うわぁ〜!!!」
辰「細見くん、どうしたの!」

(180) 担当:陰山
細「あっ‥頭が割れるように…痛い…」
細見、我に返る。
福本、陰山の姿消えている
恩「どうしたの?なに今の歌」
細「そうだったのか…俺は証明しなきゃいけなかったんだ」
恩「あ、それで人間の証明?」
海部と山口現れる。

(181) 担当:陰山
海「海印のネジの使い方がやっと分かったようだね」
山「苦労したよぉ〜」
海「いろいろとヒントを出してやったのに、全然気が付かんかったなぁ」
山「ヒントって言ってもメチャクチャだからっ」
海「なんや、俺のやり方がおかしいって言うんか」

(182) 担当:陰山
山「いや、おかしいって言うか訳わかんなかったしぃ」
細見立ち上がる。
細「このネジが…、わかった」
海「そうや。海印のネジや。あんたらみんなネジなんや。それで、劇場を作るんや。未来の劇場や。
そこで月子さんが待ってはんねん」

(183) 担当:陰山
恩「えっ。このネジで…」
海「そうや。なんでも自由に作れるんや」
山「僕たちも手伝いますから」
辰「ウォ〜!!!」

(184) 担当:細見
夜中。劇場近くの浜辺。
砂浜に座る細見。
細見、「哀戦士」を口ずさむ。
ちょうどいい所で瓜生が現れる。
瓜「ごめんね盛り上がってるとこ」
細「あ、いえ…」
瓜「まだ起きてたの?」
細「なんか…寝れなくて」
瓜「そう…ま、色々あった一日だもんね」
細「ええ」

(185) 担当:細見
瓜「みんなはもう疲れて寝ちゃったよ。なんか、修学旅行みたいだよね」
細「(笑)」
しばらく海を眺める二人。
細見、海印のネジを取り出し
細「これって…現実のことなんですよね」
瓜「何が」

(186) 担当:細見
細「いや…なんだか、劇場作るとか、あの海部って変な人とか、それに…昔俺がここに住んでたこととか」
瓜「月子さんのこととか?」
細「…ええ」
瓜「お母さん、て言ってたね」
細「言いましたよね、やっぱり…」
瓜「ん?」
細「…久美子です。俺の母親の名前」
瓜「え?」

(187) 担当:細見
細「それに俺…大阪出身なんです。関西人なんです。納豆食べるけど、関西人やねん」
瓜「そういえば…」
細「ちゃうちゃうちゃう?ちゃうちゃうちゃうんちゃう?」
瓜「あ、はい」
細「それなのに」
瓜「なに」
細「月子が自分の母親だって記憶があるんです」
瓜「なにそれ」

(188) 担当:細見
細「有馬さん言ってましたよね、『シゲが金持ちておかしいな』って」
瓜「言ってたね」
細「僕らの認識では…少なくともシゲは、誰よりも売れっ子のブレイクトレンド俳優ですよね?」
瓜「そうだね」
細「それに…あれ(と、2つの月を指差す)」
瓜「…ミニムーン」

(189) 担当:細見
細「おかしくないですか、なんか。でもね、最初はおかしいって思ってた筈なのに、今はこの事実を受け止め始めている。まるで最初からそうであったかのように」
瓜「そしてこれが現実となる」
細「ええ」
瓜「んー…」
細「どう思います?」

(190) 担当:細見
瓜「んー…難しいことはよくわからないけど、ま、いいんじゃない?僕はこうやって、みんなと芝居できればいいし」
細「瓜生さん」
瓜「ん?」
細「瓜生さん…いつ役者に復帰したんですか?」
瓜「え?何言ってんの?」
細「…じゃあ、芝居は一度もやめていませんか?」

(191) 担当:細見
瓜「当たり前じゃん。何いってんの」
細「…世界から抜け落ちた」
瓜「は?」
細「昔、そういう小説みたいなのを書いたことがあったんです。ある日、『穴』に落ちるとそこは、自分がいた世界とが少しだけ違う世界だったって」
瓜「ふーん」
細「あからさまに興味ないですね」

(192) 担当:細見
細「いえ、いいんです。とにかく、俺たちはこれから、劇場を作り、そして、芝居を作る」
瓜「うん。がんばろー。あの恩田って管理人さんも、大輔、知り合いなんでしょ?」
細「ええ」
瓜「ほら、あそこにいる」

波打ち際に裸で酒瓶を持った恩田が立ち尽くしている。

(193) 担当:瓜生
瓜「管理人さーん」
夜の海を見つめていた恩田、振り返り2人の方に歩き出す
細「でも、懐かしいですね。こうやって2人で話すの、久しぶりですよね。」
瓜「え?」
細「話せてよかったです」
瓜「え?ほんきで言ってる?」

(194) 担当:瓜生
瓜「きのうもテレビ電話で2時間くらい話したし、
なんなら一昨日も、ここで、夜中に、話ししたよ。2人で。
大ちゃんこそ、大丈夫?」
恩田、2人のそばにきて
恩「寒っ」
瓜「これ着てください」
瓜生、持っていた上着を着せかける。

細「なにかが、、抜け落ちてる、、、

(195) 担当:瓜生
今、この海を見ながら、子供のときのこと思い出していたんです。
ここで、歌を歌って、、」
瓜「哀戦士?」
細「いえ、、英語の、、英語の歌詞です。。ママ、、ママー、、♪」
少しずつうる覚えで歌っている声にかぶせて、細見の記憶が蘇る

(196) 担当:瓜生
照明チェンジ(イメージシーン)
福本、陰山、海部、山口、砂浜を通り過ぎていく(3人には見えない)
福本『ふたつの月が一つになったとき、、』
海部『あんたみんなネジなんや』
福本『それは、、訪れる、、』
海部『未来の劇場や、、』

(197) 担当:瓜生
福本『ふたつの月が一つになったとき、、』
海部『未来の劇場や、、』

細見、恩田の顔を見つめる
恩「お前、毎日ここん来とるやろ?」
細「え?」
恩「神輿や、神輿、乗りよったやろうが」
細「リューイチ?」

(照明戻る。福本たちはもういない)

(198) 担当:瓜生
恩「(ロレツまわらぬ口調で)思い出しましら?」
細「え、、? 相浜小の、リューちゃん?」
恩「ピンぽ〜ん、、、大ちゃん、神輿や、神輿や!」

ハマシャーイハマシャーイハマシャーイ
遠くから男たちの掛け声が聞こえてくる
ハマシャーイハマシャーイハマシャーイ

(199) 担当:瓜生
ハマシャーイハマシャーイハマシャーイ
以降、架空の神輿を担いだ男たちが
(口々に過去の台詞を言いながら)
一塊りになって通り過ぎていく

川「ちょ待てよ!絶対無理!協力なんて出来っこないね!デカすぎ!マジデカ〜!
馬「だいたい…細見君がおるわけないやろ」

(200) 担当:瓜生
女「待ってるから…待ってるからね…」
馬「説明してくれ!何をやねん!何作ったらええねん!」
女「劇場」
馬「劇場をお譲りいたします…老朽化が激しい建物ですが、大切にお使いいただければと」
川「やろうよ!俺たちは選ばれたんだよ!」

(201) 担当:瓜生
馬「道楽やて。名前忘れたけど、芝居好きのお嬢がおってん」
生「そうです!皆さんは選ばれたのです!あたかも八犬伝の八犬士のごとく!」
川「やろうよ!俺たちは選ばれたんだよ!」
陰「いかにも私が陰山。演劇界の隠れた重鎮。その名も陰山泰」

(202) 担当:瓜生
山「そして皆さんの手の中にある海印のネジ…これは言わば招待状!」
福「ほら、そのネジでしっかり締めたら、頑丈なエエもんできるやん」
川「やろうよ!俺たちは選ばれたんだよ!」
福「古代ギリシャのアルキタスという学者が発明したっていう説と」

(203) 担当:瓜生
川「やろうよ!俺たちは選ばれたんだよ!」
福「……エス……シー……アール……イー……ダブリュー」
川「だって、スクリュードライバーっていいますもんね!!」
小「月はね。月は、そもそもふたつあるんだよ」
海「さあ、みなさん、、わたしにネジを、ネジをこちらに、、」

(204) 担当:瓜生
山「世界線…」
生「だから俺…ネジないんですけど…」
恩「おう!相浜小のリュウイチや!」
辰「ママが言うてたで『あそこはな、近づいたらな、穴があいててな、ヒューってな、吸い込まれてまうんよ、ほんでな…」
母の声「大輔~、こんなところに居たの?」

(205) 担当:瓜生
細「母さん」
恩「ミニムーン」
川「なんだ〜コレ♪なんだ〜コレ♪
ふっしっぎっな世界ぃぃ〜〜♪♪
ハマシャーイハマシャーイ!
♪なーんだこれーーー」
母の声「大輔~、こんなところに居たの?」
ハマシャーイ!ハマシャーイ!ハマシャーイ!

細「思い出した!」

(206) 担当:瓜生
照明戻る

残っているのは細見、瓜生、恩田。
細「思い出した。俺、この街に、劇場をつくるために
東京に出たんだった。それで!」

瓜「そうだよ。なにを今さら」

恩「あ!月が!月が重なってく!」

(207) 担当:有川
重なり合う二つの月。
次の瞬間、眩いばかりの光が溢れ出し男達を包み込む。その光はゆっくりと闇へ溶け込んでゆき、やがて一筋だけが残る。
月からの一筋の光。
そこに浮かび上がる、細見。瓜生と恩田の姿は消えている。

静寂。
細見は椅子に腰掛け、机に向かっている。

(208) 担当:有川
机の上にはパソコン。
カタカタとキーボードを打つ乾いた音が響く。
暫くすると男が現れ、細見の傍に立つ。山口森広である。手には数枚のコピー用紙。

細「…どうかな?」
山「駄目ですね」
細「駄目?」
山「全然ダメです。意味わかんない」

コピー用紙を掲げる、山口。

(209) 担当:有川
山「今回の本は…酷いです。そりゃいつも多少のSFっぽさっていうか、そういう要素はありますよ。それがまあウチらの芝居だけど…今回のは何て言うか…弾けすぎ?」
細「はあ」
山「初っぱなから謎ばっかりで、一つも解決しないまま、どんどん進んでいくじゃないですか?」

(210) 担当:有川
細「まあ…ね」
山「謎なんかに脇目も振らずガンガン突っ走ってゆく感じで…僕なんかもう3ページ目くらいから9馬身くらいリードされちゃった感じ?わけわかんないもん!」
細「その例えもわけわかんないんだけど…」
山「何て言うか…シーン毎に別人が書いた…みたいな?」

(211) 担当:有川
細「今回は敢えて新しい書き方って言うかね…チャレンジしてみたくて」
山「チャレンジャーすぎるでしょ」
細「役者の新たな面も引き出したいし」
山「海部さんなんか、ほとんど口パクですよ…まぁ本人はなんか喜んでるみたいだけど」
細「台詞覚えなくていいからかな?」

(212) 担当:有川
山「海部さん、よくわかってないんですよ!読み合わせしたら愕然としますよきっと。読む台詞が無いんだから…ヒマでしょーがないでしょ!」
細「読み合わせ、いつやるの?」
山「明日か明後日には」
細「渡した分だとまだ佐久間さんが…出てきてないと言うか何と言うか…」

(213) 担当:有川
山「アレはイイっすねー」
細「…え?」
山「あの登場はイイっす!感動しました!」
細「…そう?」
山「胸が熱くなりました!…人面魚!しかも絵!面白い!」
細「…そうかな?」
山「斬新!さすが細見さん!天才!」
細「…いや、納得いってないから、アレは書き直すよ」

(214) 担当:有川
山「アレはイイんですよ!絵もうまいし!ああゆうチャレンジならガシガシやってくださいよ!…でもね、ぶっちゃけ、その他のチャレンジはね…この台本見せたら、皆んなが何て言うか…」

細「ソレ(山口の持ってる台本)はさ、まだ話の途中だから!」
山「そうですけど…」

(215) 担当:有川
細「この後、全ての謎を回収して、めちゃめちゃ面白い展開に…」
山「時間無いんですよ!…そりゃあ僕ら、いつも忙しい中集まって、2週間位で芝居作ってますよ。でも今回は…あと1週間も無いんですよ!皆んな稽古場で、台本を待ってるんですよ!」
細「ごめん、でもさ…」

(216) 担当:有川
山「何ですか?」
細「今回は…今回だけは最後まで拘りたいんだよ。…本当は、ほとんど最後まで書き終わってるんだけど」
山「え?…本当に?」
細「この中(パソコン)に入ってる」
山「…なんだぁ〜!だったら早くプリントアウトして…」
細「もう少しだけ待ってくれ!」

(217) 担当:有川
山「何で?」
細「どうしても納得いかないんだ。書き直したい」
山「(深い溜息)…わかりましたよ」
細「…ありがとう」
山「そのかわり…見せてもらえますか?」
細「え?」
山「続きを」
細「ああ…いいよ」

細見、パソコンを操作しながら。

細「…どこからだっけ?」

(218) 担当:有川
山「二つの月が重なるところです」
細「ああ…」
山「月が二つって…アレですよね、今回舞台セットもかなり弾けてますよね?…屋台崩し?劇場もぶっ壊す設定だし」
細「思いのほか、大掛かりになっちゃって…」
山「早く舞台監督に発注しないと…」
細「…間に合うかな?」

(219) 担当:有川
山「古屋さんなら何とかしてくれるでしょ。めちゃお金かかりそうだけど」
細「大丈夫かな?」
山「大丈夫ですよ。僕、金なら持ってるんで」
細「…え?」
山「金なら腐るほどあるんで」

細見、漠然とした違和感に恐怖…

山「…あ、そこからだ」

山口、続きを読み出す。

(220) 担当:有馬
読み進める山口

あたりが暗くなる

波の音

男たちの影が現れ
細見の姿が消える

男たち、山口が読み進めた分の台本をそれぞれ
一枚、また一枚と手に取っていく

波の音が遠ざかる

明かりが点く

劇場

まだ何も装置のない舞台
手にした台本に目を落とす男たち

(221) 担当:有馬
陰「うーん…」
生「難しい…すね…」
川「てか、どうやってやんだよ、これ」
海「デカイ穴て…掘るん?(笑)」
川「どこにだよ!」
山「舞台ですよ」
川「は?」
瓜「掘るって…せっかく直したのに…?」
山「だって台本にそう書いてあるんですから」
瓜「……」

(222) 担当:有馬
生「だからって本当の穴じゃなくても…」
山「ダメです。今回は全部ホンモノでやります」
川「ホンモノって…」
福「ほな、このリムジンもホンモノっちゅうこと?(笑)」
川「どこにあんだよ、んなもん」
山「そこに」
川「は?」
山「買いました。外に停めてあります」

(223) 担当:有馬
川「え?」

男たち見に行く

男たち「!!」
海「でかっ…」
川「マジデカ~!…いや、デカイよ、デカすぎだろ!」
福「リムジンて…(笑)」
瓜「これ…買ったの?」
山「金なら腐るほどあるんで」

呆れる一同

陰「これさ、どうやって舞台に入れるんだよ(笑)」

(224) 担当:有馬
川「そうだよ!車なんか入れるトコねえよ」
海「トラックよりデカイんちゃうん?」
山「壁をブチ抜きます」
男たち「え!?」
福「ぶち抜くて…」
瓜「なに言ってんの!?」
生「やっと直したんだよ」
山「でも、入らないですから」
瓜「だからって…」

(225) 担当:有馬
馬「待って。…なあシゲ、入れたところでや、あんなデカイ車、この舞台に乗りきらんやろ」
福「ほんまやで、客席にはみ出てまうがな(笑)」
馬「どうすんねん?」
山「そこなんです」
福・馬「どこやねん」
山「この劇場、今回の芝居には、ちょっと狭いんですよね」

(226) 担当:有馬
川「ちょっとじゃねぇだろ」
山「そう、ちょっとじゃねぇ」
川「あ?」
陰「なんなんだよ(笑)」
山「なので客席を潰して舞台を広げます」
一同「は?」
山「リムジンを入れてデカい穴を掘ってバーのセットを拵えスクリーンを吊る…」
瓜「それ、全部ホンモノを?」

(227) 担当:有馬
山「望遠鏡をセットして、月を二つ飛ばす…」
川「え、月…?」
山「買いました」
川「は?」
山「外に置いてあります」

男たち見に行く

川「マジデカ~!いや…デカいよ、デカすぎだろ!」
生「こんなのどうやって吊るすの…?」
山「これは劇場の外に飛ばします」

(228) 担当:有馬
陰「飛ばす?」
福「誰が」
山「古屋さんに手配済みです」
馬「シゲ…いや、劇場の外に飛ばしたとしてな、お客さん、どうやってそれを見るわけ?」
山「劇場の壁を」
生「まさか」
海「壊してまうん!?」
山「一面全部」
瓜「な、何言ってんの!」
山「屋台崩し、ですね」

(229) 担当:有馬
陰「屋台崩し…」
山「そこの壁が一面崩れると、向こうに海が見渡せます。そしてその上空には月が二つ」

一同唖然

山「あ、今そこの海で佐久間さん、水中からのジャンプの練習してますよ」
川「え…」
瓜「まさか…」
生「人面魚?」
山「あれは良いシーンですからね」

(230) 担当:有馬
山「もちろん着ぐるみも発注済みです。あ、福本さんのねばーる君も今日中に届きますよ」

陰「シゲ…細見は?」
川「そうだよ、細見君はどうしたんだよ?」
山「細見さんはラストシーンの打ち合わせで、演出家と一緒に古屋さんのとこに」
福「まだ何か崩そうっちゅうんか」

(231) 担当:有馬
山「わかんないですけど、一応、船と重機の手配はしてあります」
陰「船…」
福「重機…」
瓜「それも…」
山「金なら腐るほど…」

馬「おい!」
山「はい?」
馬「誰やねん?」
山「は?」
馬「お前、シゲと違うやろ」
福「うん、そんな気ぃすんな」
馬「お前…誰や」

(232) 担当:海部
山「ちょっと待ってくださいよ!」
陰「お前は誰なんだよ!!マーク」

静寂。
皆の視線が山口森広に突き刺さる。
全身に皆の視線が突き刺さった山口森広、静かに笑い出す。鼻から漏れる様な笑いは次第に威風堂々とした笑いに変わってゆき

山「しょうがないなー僕はねえ、」

(233) 担当:海部
セリフを遮るように恩田、駆け込んで来る!
上がりきった息をなんとか整え、
 
恩「さ、佐久間さんが、溺れた‼︎」
馬「溺れた?」

気が動転し言葉の続かない恩田、ジェスチャーでなんとか皆に伝えようとするが、伝わらない。

福「恩ちゃん!落ち着こう!」

(234) 担当:海部
恩「佐久間さん、人面魚の格好でずっとジャンプの稽古してて、俺、そろそろ休んだらって言ったんだけど、もう今までの俺じゃないんだって、ぜんっぜん休もうとしなくて、何かに取り憑かれた様に、(恩田、嗚咽をこらえながら)ニューガンダムはダテじゃない!

(235) 担当:海部
恩「ニューガンダムはダテじゃない!ニューガンダムはダテじゃない!って叫びながらジャンプ続けて、でもだんだん、ジャンプとジャンプの間隔が空いてきて、そんで、そんで、次やっと顔出したと思ったら、

(236) 担当:海部
恩「『ごめんよ、まだ僕には帰れる所があるんだ。こんな嬉しいことはない。わかってくれるよね?ララァにはいつでも会いに行けるから』って、優しく微笑んだまま海底に、海底に、(堪えきれず静かに泣き崩れる)」

川「マジいよ、それ!」

(237) 担当:海部
瓜「助けないと!生津くん、救急車!海部さん、取り敢えずロープとライト!」
生・海「わかった(など)」

皆も海岸に駆け出してゆく。

残された山口、恩田。
二人見つめ合う。
山口笑い出す。

(238) 担当:海部

山「いや〜助かったよ恩田ちゃん〜」

と山口、札束を出して恩田に雑にばら撒く。恩田は動かない。

山「なんだよ、足らないのか?」

更に札束をばら撒く。
恩田微動だにしない。
次第に照明が恩田に絞られ、山口は闇に。

恩「もう…、やめにしませんか?古屋さん」

(239) 担当:細見
闇の中から声が響き渡る。

山「懐かしい名前だ」
恩「何が目的なんです?」
山「ん?」
恩「わざわざ東京から役者を集めて、芝居をするなんて…しかも、大して集客力も無さそうな役者ばかり」
山「おやおや、そんな事言っていいのかい?後々遺恨を残すことになるぞ」

(240) 担当:細見
恩「今のは…あくまで一般論です」
山「私見を一般論にすり替えて、世間を煽動する。良くある手だよ」
恩「俺はこの劇場をもう一度立て直したいんです。あなたが何を企んでいようとね」

(241) 担当:細見
山「ははは!企みなどないよ!私はただ、この街、シーサイドヘブンを再び活気溢れる場所にしたいと願っているだけだ」
恩「…」
山「この街の、市長としてね」
恩「…あんたの好きにはさせない」

恩田、去る。

(242) 担当:細見
山口、携帯を取り出して

山「私だ…ああ…心配するな、すべて計画通りいっている…君の希望通り、ネジは揃った」

暗転
明転すると、そこは劇場近くにあるカフェバー「ブレーメン」。
生津がノートパソコンに向かい、文章を打っている。

(243) 担当:細見
生「こうして俺達は、年末に向けて劇場を作る為、共同生活をすることになった。楽屋をそれぞれの部屋に改装し、寝泊りしながら劇場改修の作業と芝居の稽古をする。おっさんばかりで加齢臭も気になるところだが、なんとかやっている。演劇人は集団行動には慣れている。

(244) 担当:細見
食事は主に細見と瓜生が担当した。細見は油断するとすぐにカレーを作りたがる。ひどい時なんて、三食カレーだったこともある。そんな時俺は、ここ、ブレーメのハンバーガーとポテトとシェイクを無性に食べたくなるんだ。

(245) 担当:細見
ブレーメンはこの街、シーサイドヘブンの中央に位置する24時間営業の店だ。昼間は家族連れが集い、夜になると、近所のギャング達も現れる。噂ではここの地下に隠れバーがあるらしいが、真実はわからない。陰山さんはここで雇われマスターとして働いている。

(246) 担当:細見
他のみんなも、それぞれの特技を活かした職につき、生活費を稼いでいる。おっと、俺の仕事は何かって?俺は…」

有川が慌てて店にやってくる。

川「生津君」
生「どうしたの?血相変えて」
川「マスター、いつもの」
陰「あいよ」

(247) 担当:細見
陰山、手慣れた手つきでシェイクを作り始める。

生「で、何か驚きのネタでも見つかった?」
川「驚きなんてもんじゃないよ…恩田が…殺された」

陰山、思わず作っていたシェイクのグラスを床に落とす。

陰「バイト代から引かれちゃう!」

泣きじゃくる陰山。

(248) 担当:細見
雷の音がする。
やがて、雨粒が店の窓を激しく叩く。

生「シーサイドヘブン。この街に来た時から俺は予感していた。きっと何かが起こるってね。いや、正確には、俺の中に流れるじっちゃんの血が俺にそう予感させるのさ」

生津、キャップをキュッと被り気合いを入れる。

(249) 担当:細見
生「いくよ、マコト君。事件だ」

有川、生津、店から出ようとする。
生津、扉の前で立ち止まり

生「おっと、俺の仕事をまだ言ってなかったね。俺は探偵、名探偵高橋大輔(本名)だ」

店を出る二人。

陰「あ!お会計!お会計!」

激しい雨の音が聞こえる中、暗転。

(250) 担当:瓜生
明転
山口、携帯を取り出して

山「私だ…ああ…心配するな、すべて計画通りいっている…君の希望通り、ネジは揃った」
雨の音。
山「降ってきたな。朝、天気予報で言ってた、、、ああ、、本降りになる前にそっちに戻る」
一度 はけた恩田、ナイフを持って戻り山口の背後に

(251) 担当:瓜生
山口気がつかないまま
山「そっちに戻る前にブレーメンに寄っていこう。まだみんな俺をシゲだって思ってるから、はしゃいだふりしてメシでも食って」
恩田勢いをつけて山口に走り寄る、手にはナイフ
山口振り返り、恩田を交わす
銃声
倒れる恩田

(252) 担当:瓜生
男の声「シゲちゃん、小道具はちゃんと戻しておかないと」
佐久間、拳銃を持ち下手から登場
山口、笑いながら 電話に戻り
「ああ、恩田、うん、そう。佐久間が、やった、、うん
え?ああ今から、うん、ブレーメンに、行くよ、うん、うん」
と電話で話しながら上手へはける

(253) 担当:瓜生
山口を見送った佐久間、恩田を起こす
佐「恩ちゃん、起きて」
恩田、目を開ける
恩「佐久間さん」
佐「さ、行こう、早く」
恩「うん、ありがとう、行こう」
佐久間、恩田、下手へはける

雨が激しく降りだす

(254) 担当:瓜生
舞台上手(客席から見て右手)から
有馬、福本、海部、生津、瓜生、陰山、有川、7人
走り出し、下手(客席から見て左手)へ抜ける

激しい雨の音

佐久間、恩田、下手から上手へ走る

上手から
有馬、福本、海部、生津、瓜生、5人、走りながら

(255) 担当:瓜生
瓜「ロープと、ライトは?」
海「持ってる!」(海部、手にロープとライト)
5人、下手へはける

佐久間、恩田、上手から下手へ

生津、有川、下手から上手へ
生「マコトくん、急いで」
そのあとを追う陰山
陰「お会計、、お会計、、」
3人、上手はけ

激しい雨の音

(256) 担当:瓜生
山口、上手から走り込み舞台中央で静止(ストップモーション)

有馬、福本、海部、瓜生、下手から走り込み舞台中央で静止

生津、有川、陰山、上手から走り込み静止

佐久間、恩田、下手から舞台中央で静止

(257) 担当:瓜生
佐久間の持っていた拳銃を、スローモーションで
恩田→陰山→有川→有馬→福本→海部→瓜生→山口
と渡していく

スローモーション中、山口は「序章」のお面を装着
山口がお面をかぶり、拳銃を手にした瞬間、スローモーションは解け

男たち入り乱れる

乱闘

(258) 担当:瓜生
乱闘
(乱闘中にお面をかぶった山口と、お面をかぶった古屋、入れ替わる
生津と有川は、下手へはける)

古屋、有馬を羽交い締め、有馬に拳銃を突きつける
雨の音、止まる

古「動くな、静かにしろ」
馬「シゲか?」

(259) 担当:瓜生
古「違う、シゲじゃない。お前 寝言うるさいんだよ、デカイとか小さいとか」
馬「いや、その声しげ、、じゃないな、、」
古「(声変えて)違います。細見です」
馬「違いますて、なんで急に敬語やねん。やっぱりお前シゲやんけ」
古「…」
馬「なに黙っとんねん」

(260) 担当:瓜生
古「…」
馬「だいたい…細見君がおるわけ、、」

下手から走りながら生津(探偵高橋)、有川登場

生「そこまでだ!」
川「そこまでだ!」

(261) 担当:有川
陰山、遅れて走り込んでくる。

陰「そこまでだ!」
生「マスター、今ちょっと取り込んでるんで」
陰「そうやって毎回誤魔化すんだから!今日こそちゃんとお会計を…」

生津、懐から納豆を取り出し、陰山に。
有川、箸を陰山に。

陰「わーい」

陰山、納豆を混ぜ始める。

(262) 担当:有川
古「何だ!お前ら」
生「待たせたな!ここからは俺の『推理ショー』の時間だ!…お面のオジサン、お生憎様。恩田さんは生きてますよ」
古「…何だと?」
川「え?そうなの?」
生「(携帯を取り出し)連絡があった。今頃、こっちに向かってるよ。佐久間さんも一緒にね!」

(263) 担当:有川
馬「話しが全然見えへんのやけど…」
生「全てはこの街を牛耳るあの男、シーサイドヘブンの市長、山口森広の企てだったんですよ!」
馬「…どういうこと?」
古「動くな!」

古屋、羽交い締めに力を込める。

生「事の成り行きは、こうです…」

生津が静かに語り始める。

(264) 担当:有川
生「山口は佐久間さんを使い、常に俺達を見張っていました…人面魚の格好をさせてね」
川「佐久間さん見張りだったの?」
生「恐らく金で雇われたんでしょう。俺達はずっと見られていた…実に巧妙な手口だ」
馬「…巧妙か?」
古「静かにしろ!」

有馬、締め落とされる。

(265) 担当:有川
馬「ゲ」
川「自由さん!!」
古「(拳銃向け)近づくな!…話しを続けろ」
生「…山口の正体がバレそうになった時、佐久間さんに溺れたフリをさせ、俺達の注意を逸らせた」
川「溺れたの…演技だったのか」
生「いや、演技しようとして、本当に溺れたんだ」
川「え??」

(266) 担当:有川
生「山口が渡した人面魚の着ぐるみには、細工がしてあったのさ!…水が染み込むと重くなるようにね!」
川「…うん。…気付くよね?海に入った時点で」
生「細工はそれだけじゃない!…佐久間さんを助ける為のロープ!」

海部、ロープを持ち登場。
引っ張る…と、切れる。

(267) 担当:有川
生「切れ込みが入っていた!…更にライトは」

海部、ライト出す。

生「防水じゃなかった!」

海部、退場。

生「仕組まれていたのさ!山口にね!用済みになった佐久間さんは始末される筈だった…そうでしょう?」
古「……」
生「しかし佐久間さんは一命をとりとめた…

(268) 担当:有川
一度は用済みになった佐久間さん…だが新たな使い道が出来た。山口は何食わぬ顔で次の命令を下す…それが、恩田暗殺計画」
川「何で恩ちゃんを?」
生「恩田さんも雇われていたか、脅されていたのかも…いずれにせよ山口との間に何らかのトラブルが生じた…違いますか?」

(269) 担当:有川
川「…でも結局…佐久間さんは恩ちゃんを殺さなかったんだよね?」
生「流石に気付いたんでしょうね佐久間さんも。自分が山口に殺されかけた事に…」
川「…生津くん、シゲは一体、何をしようとしてるの?」
生「恩田さんと佐久間さんが来れば、全て明らかになるでしょう」

(270) 担当:有川
川「そっか」
生「でもその前に…この人に聞いてみましょうか?…ね、お面のオジサン」
古「……」
生「いや…黒幕さん」
川「コイツが…黒幕?」
生「そろそろ正体を明かしてもらいましょうか…お面をとるんだ!…細見大輔!!」

間。

川「…生津くん…絶対違うと思う」

(271) 担当:有馬
「はい、一旦止めまーす」
の声とともに細見出る

他の男たちもバラバラと現れる

そこはカフェバー「ブレーメン」

生「ゴメン細見さん、だんだん、わけわかんなくなってきちゃいました」
川「オレ、途中で笑い堪えんの必死だったよ」
生「いやぁ、難しいっすわ、探偵」

(272) 担当:有馬
川「『推理ショーの時間だ!』って、何が始まんの、って(笑)」
細「雰囲気は良かったですけどね」
川「生津さん、あのセリフ、全部アドリブでって、や、あれは凄いわ、てか酷だわ(笑)」
生「台本に『有能っぽい探偵』としか書いてないんすもん」
川「っぽい、ね(笑)」

(273) 担当:有馬
福「スローモーションからの乱闘て、あれ難しなぁ」
海「何やったらエエんか全然わからへんかったわ」
福「絶対乱闘に見えへんな(笑)」
海「でも、瓜さん、さすがですよね」
川「オレ瓜君のパンチ、めちゃくちゃ怖かったよ」
生「陰山さん、当たってませんでした?…あ!」

(274) 担当:有馬
陰山、氷嚢でこめかみのあたりを冷やしている

瓜「え?陰山さん…」
福「当たっとるがな(笑)」
瓜「うそ!凄いゆっくりやってたのに…」
川「あれでかー(笑)」
生「大丈夫すか?」

陰山、それには答えず

陰「あの、納豆がよくわかんないんだよな」

(275) 担当:有馬
生「わからないって?」
陰「何で、俺は、納豆なんだよ」
細「好物なんでしょ?」
陰「好物だからって、あの状況で納豆渡されて『わーい』って、おかしいだろ」
川「自分でやったんじゃん!」
海「迷いなく混ぜてましたやん」
陰「そりゃ、納豆渡されりゃ混ぜるだろ」

(276) 担当:有馬
福「どないやねん」
陰「周りの設定にちゃんと乗っかるのが大事なんだよ、即興は」
生「さすが」
海「何で自分、いつも納豆をポケットにいれてるん?」
生「何でって…」
海「設定?」
生「設定というか」
福「そういうとこがある人なんや」
川「そういうとこって…(笑)」

(277) 担当:有馬
しばし緩い時間が流れる

細「じゃ皆さん、少し休憩して、もう一度エチュードをやりましょうか」

海「今度、ボク探偵やってもいい?」
細「あかん!」
海「何でぇ」
陰「じゃあ、次は俺がホームズを…」
細「陰山さんは雇われマスターのままでいきます」
陰「…」

(278) 担当:有馬
福「陰山さん、やっぱりエプロン姿のマスターが一番ええよ」
陰「あ、やっぱり?(あっさり受け入れる)」
福「陰山さん、ええバイト見つけましたやん」
陰「や、ここ凄い安いんだけどね、時給」
川「安い!安いっすよ!この町の相場?俺んとこもめちゃくちゃ安いっすよ」

(279) 担当:有馬
福「有川君、何してるんやったっけ?」
川「給食センター」
海「へぇ」
川「何?」
海「いや、ちょっと想像つけへんなって」
生「福本さんは?」
福「パチンコ」
生「へ?」
福「パチプロ…みたいなもんや」
海「ええっ!?」
福「何?」
海「めちゃめちゃ想像つきますわ」

(280) 担当:有馬
福「つくんかい」
川「べっちは何やってんだよ」
海「僕、漁師」
川「え?」
生「漁師!?」
海「の助手、というか、見習い」
陰「船に乗ってんのか」
海「乗ってません」
陰「え?」
海「僕、めちゃめちゃ船酔いするんですわ」
生「じゃ…(無理だろ)」

(281) 担当:有馬
海「乗って2日で3キロ痩せました」
福「何で、やろと思てん?」
海「魚、好きなんですわ」
陰「獲るのが?」
海「食べるのが」
生「何言ってんの」
川「じゃ、見習いって何やってんだよ」
海「船のお掃除」
陰「掃除…」
海「のお手伝いを」
陰「…そりゃまぁ、時給も」

(282) 担当:有馬
海「ほぼほぼ無しですわ」
生「え?」
川「無し、って…そんなんで」
海「魚貰えるんです」
陰「魚…」
海「お金は貰えへんけど、時々新鮮な魚を」
生「それが、給料?」
海「ほら僕、魚好きやないですか」
陰・川「知らねぇよ!」
海「今なんか週3で晩御飯、魚ですもん」

(283) 担当:有馬
生「週3…」
福「そら、ええバイト見つけたねぇ」
海「紹介しましょか」
福「うん、ええわ」

細「じゃ、やりますか」
福「そやね」

一同、少し重くなりかけた腰を上げる

瓜「細見君、やっぱりラストシーンをエチュードでって…」
細「え」
瓜「難しい…ような」

(284) 担当:有馬
川「絶対まとまらねぇ(笑)」
瓜「うん」

細「別に無理にまとまらなくてもいいかなって…」
瓜「でもさ…」
生「探偵が全ての謎を解き明かすってのは、格好いいですけどね」
川「綺麗に謎が解ければいいけどさ」
生「そこなんですよね」
海「探偵を二人にしてみるんは?」

(285) 担当:有馬
瓜「ちょっと海部さん(黙ってて)」

細「全員の持ち味を最大限に生かしたラストを…」
瓜「うん」
細「…なんとか、いつもとは違う感じで、できないかって…」

福「光見えるまで、何回かやってみようや」
生「やりましょう、ね瓜君」
福「ここ、時間まだええんでしょ?」

(286) 担当:有馬
陰「ああ、今日はもう閉めちゃったからね」
川「じゃ、どこからやる?探偵の長ゼリから?」
細「いや…その前に、有馬さん…ん?」
瓜「え?」
川「自由さん?」

男たち、ようやく気絶したままの有馬と
お面を被ったまま佇んでいる男(古屋?)に気づいた

(287) 担当:生津
川「自由さん、もう良いですよ」
馬「・・・」

  有馬、ゆっくりと座り直す。
  古屋、そーっと退場。

馬「・・・うーん。ちょっと難しいかもわからんな。・・・やっぱり細見くんが書いた方がええんちゃう」
細「そうですかね」

(288) 担当:生津
川「でも今回は、敢えていつもと違う事をやるんでしょ」
瓜「そうね、でも確かにずーっとゴチャッとしてるよね」
生「・・・俺正直納豆とかネジとか良くわかってないですもん」
川「まあ、使い方だとは思うけどね」
海「鼻の穴から大きな鼻クソがパラパラてどうすんねん」

(289) 担当:生津
福「ねば〜るくん伸びるで」
瓜「ハマシャーイは入れてほしいんだよなぁ」
生「あれは面白いよね」
有「ま、結局肝心のお客さんが付いて来れへんかったらしゃあないやん」

(290) 担当:生津
陰「でもさ、つまりね、エチュードはあくまで案じゃんか。俺らはなるべく好き放題にやって、可能性をできるだけ広げて、んで最後に細見がそれをしっかりまとめればそれで良いんじゃない?」

(291) 担当:生津
福「そやな、いらんとこはどんどん切ってええよ。お客さんが追えるスジが一本あればさ、他はもうどうとでもできるし」
細「うーん。やっぱそうかなぁ・・・」
馬「今回の公演は、そんな、なんや、あんま実験的な事やってもしゃあないやんか。・・・

(292) 担当:生津
・・・来てくれるお客さん達の層考えたって、この街の雰囲気みたってそやろ。小難しい事やるより、観てあーおもろかったー言うような芝居の方がええと思うねん」
福本「そやな。まずは楽しんでもらわなな」

(293) 担当:生津
海「そう、港町やし魚もっとネタに入れ・・・」
細「よし!わかりました!今夜ちょっと考えます、時間ください!おじゃジャシたー!」
男達「お疲れ様でしたー!!」

細見、ハケる。
男達も、全員ワイワイとハケていく。

(294) 担当:生津
照明が徐々に変わっていくと、古屋が舞台上に現れる。
ここは古屋の部屋。柔らかい間接照明に照らされ、一枚の写真に語りかけている古屋。

古「・・・月子ちゃん、もうすぐだよ。やっと・・・やっと芝居を観せてあげられるね。・・・

(295) 担当:生津
・・・気に入ってもらえるかどうかわかんないけどさ、あの劇場、またお客さんで一杯にさせるから。大輔くんも頑張ってるよ。大したもんだよ、即興観てても全然訳分かんないんだけどさ、それをしっかり物語にしちゃうって言うんだから・・・ご
めんね月子ちゃん!!・・・

(296) 担当:生津
・・・時間かかっちゃって・・・でもホント・・・俺、一緒に観たかったなぁ・・・」

写真の前に崩れ落ちてしまう古屋。

薄暗い古屋の部屋の片隅に、うっすらと浮かぶ転がった人影。
よく見るとそれは、両手両足を縛られ、口を塞がれたシゲだ!

(297)  担当:細見
身をよじり、なんとか体の自由を取り戻そうとするシゲ。

山「(鼻息荒く)んー!ふーっ!んー!んー!」

床に顔を擦り付け、猿ぐつわを摩擦熱で焼き切ろうとする。

山「熱っ…熱っ!」

焼き切ることを諦め、今度は舌の力を使って猿ぐつわを強引に外そうとする。

(298) 担当:細見
山「ゔ!ゔ!ゔ!ゔ!」

驚異的な舌の力で猿ぐつわを外すシゲ。

山「はぁ…はぁ…はぁ…よかった…こういう時の為に舌を鍛えておいて」

シゲ、床に崩れ落ちた古屋に向かって

山「古屋さん!起きて!起きてください!この縄を外して!古屋さん!」

古屋、反応がない。

(299) 担当:細見
山「ダメだよ!古屋さんこんなところで!あなたはまだやることがある!起きて!古屋さん!くそっ…どうして…どうしてこんな事に…せっかくうまくいく筈だったのに…細見さんを助けたら、今度は古屋さん…どうしてだよ!どこで間違ったんだよ!」

暗転

(300) 担当:細見
明かりがつくと、そこは再び「ブレーメン」
男達が芝居の稽古をしている。

細「はいストップストップ!」

細見、手を叩き、稽古を止める。

細「だから海部っち、何回言ったらわかんのよ!その展開じゃその後誰も台詞喋れなくなるでしょ!」

(301) 担当:細見
海「そんなん言ったって、エチュードやから何喋ってもええやん」
細「はーっ…」

項垂れる細見。

福「ちょっと、一回休憩せーへん?」
川「しましょうしましょう。一回気分転換しましょ」
細「……じゃあ、13分休憩します」

細見、はける。

(302) 担当:細見
生「なんか…ピリピリしてますね、細見さん」
瓜「稽古全然進んでないからねー」
川「別にいーじゃん。公演日程決まってるわけじゃないんだしさ。どうせやるなら年末だろ?まだ時間あるじゃん」

陰山、ギターをポロンと鳴らす。

陰「こういう時にいてくれたらな」

(303) 担当:細見
川「え?」
陰「演出家」
川「あー」
瓜「確かに」

人面魚の被り物をしていた佐久間が急に固まる。

生「あれ、どうしたの?」
佐「いや…なんか、演出家って聞いただけで勝手に体が…」
生「あれ…そう言えば俺も…」
海「僕も…」

奇妙なポーズで固まる3人。

(304) 担当:細見
馬「せや…演出家や…」
福「なに?」
馬「忘れとった…演出家や…そうや、なん足りへん思てたら、演出家や、そうやで!」

陰山、激しくギターをかき鳴らし

陰「そう!演出家の……えーっと……ほら、あの」
川「あー!」
瓜「なんで忘れてたんだろう…あの…」

(305) 担当:細見
男達、名前を言おうとするが、出てこない。

海「出てきませんね…なんかそこだけ、ポッカリ抜け落ちたみたいになってる」
馬「どういうこっちゃ…」

そこへ、素っ裸のシゲが駆け込んでくる。

山「みなさん!」

(306) 担当:細見
川「変態!」
生「もち肌!」
瓜「毛だるま!」
福「ターミネーター!」
馬「山海塾!」
陰「大駱駝館!」
山「ごめんなさい!縄抜けしてたら服全部脱げちゃって!」
馬「なにいうとんねん」
川「とりあえず…これで隠しとけ」

有川、シゲにネジを渡す。

(307) 担当:細見
山「すみません…」

シゲ、ネジで自分がもっとも隠したいと思う所を隠す。

山「まさか…隠れるなんて…」
川「最高だよ、シゲ」
福「そんなお前が好きだよ」
生「なんか、感動した」

皆、なぜか拍手。

(308) 担当:細見
山「いや、そうじゃなくて…あの…皆さん…今まで色々すみませんでした…きっと心のどこかで、何かしらの今のこの状況に違和感を感じていたと思います…それは後で説明します。でもとにかく時間ないんです!皆さんに残された時間は、後1週間しかないんです!」

驚く男達。

(309) 担当:瓜生
細「残された時間てどういうこと?」
川「1週間?」
山「ハマシャーイ!」
山口、叫ぶと天井から衣服とカバンが落ちてくる
山口、5秒で衣服装着
山「ハマシャ、」
佐久間、山口の頭をスリッパで叩く
佐「説明して、しげちゃん」
瓜「佐久間君スリッパ、持ってたの?」

(310) 担当:瓜生
佐「うん」
山口、カバンからたくさんの紙を出しながら
山「1週間、1週間しかないんです」
男たち口々に「1週間?」「だからなんだよ?」「どういうことだよ?」
山「みなさん、何度も言いますが、きっと心のどこかで、(→続)

(311) 担当:瓜生
→ 何かしらの今のこの状況に違和感を感じていたと思います…それは後で説明しますので!
それにしても!自分たちがやりたいことを優先しすぎじゃないですか?
毎年見にきてくれてるお客さんたちのこと考えたことありますか?
ここに、お客さんからのメッセージがあります→

(312) 担当:瓜生
山口、紙の束を見せ
山「プリントアウトしてきました!」
馬「なんやそれ」
山「ぼくたちに!寄せられた!ファンの!みなさんからの!メッセージです!」
瓜「どこに?どこに寄せられ、、」
(さえぎって、印刷してきたものを読む)
山『福本さんの!優しい声が聞きたい!』

(313)  担当:瓜生
福「ほんとに?それ、見せて」
さえぎって
山『有川さんの笑顔が見たい!』
川「え?」
山『有馬さんのカホンと生津さんのギターと山口しげさんの歌声が聞きたい!』
福「ちょっと見せてや」
さえぎって
山『有川さんの笑顔が見たい!』
福「見せてって」

(314) 担当:瓜生
山『有川さんの笑顔が見たい!』
川「え?」
山『有川さんの笑顔が見たい!有川さんの笑顔が見たい!』
馬「ほんまに書いてあんの?」
福「見せて」
さえぎって
山『有川さんの笑顔が!見たい!』
細「そんなこと言ったらぼくだって、有川さんの笑顔が見たいよ」

(315) 担当:瓜生
山「有川さんの笑顔が有川さんの笑顔が見たい有川さんの」
山口、泣いている
瓜「ぼくだって!マコさんの笑顔が見たい!」
馬「そんなこと言ったらわしだって!まこっちゃんの笑顔が見たい!」
陰「アリピーの笑顔が見たい!」
山「有川さんの!笑顔が!見たい!」

(316) 担当:有川
皆んなの視線が有川に集まる…が、有川、どうしたらいいか分からず固まる。
とりあえず、ぎこちなく笑ってみる。

有川「エヘッ」
一同「…(非難の視線)」
有川「…こうかな?」
一同「…おー!」
有川「こうか?」
一同「おおおっっ!!」

有川、徐々に…満面の笑み。

(317) 担当:有川
山「有馬さん、カホン!」

有馬が座っていたのは既にカホン。演奏を始める。

山「陰山さん!生津さん!」

陰山、生津、共にギター演奏。

山「ここで福本さん!優しい…声!」
福「おばあちゃん、席どうぞ」

福本、席を譲る。

山「お客さんが求めてるのはコレです!」

(318) 担当:有川
楽しいセッション。
歌い出す者、踊り出す者も。
幸せな空気が溢れる。
それは恰もエンディングのように。

だが…
暫くすると徐々に歯車が狂い出す。
演奏は合わなくなり、不快なリズム、音色を奏でる。
歌も踊りも奇妙にズレ…
有川が大声で笑い出す。

山「有川さん?」

(319) 担当:有川
山「笑顔が見たいとは言ったけど…そんな全力投球で笑わなくても…」

有川の笑い声には狂気の色。周りの者たちの目にも、それが宿る。

山「あれ?皆んな?ちょっと…」

混乱が最高潮に達した時…
山口が手にした紙(有川へのメッセージが書かれている?)を破り捨てる。

(320) 担当:有川
有川の笑いが止まり、床に崩れ落ちる。
山口、次々と紙(各々の事が書かれている?)を破り捨ててゆく。
一人一人、糸の切れた人形の様に崩れ落ちる。

長い間。

山「また…失敗か…」

山口、泣いている。

山「世界線の移動…収束…いくら過去を改変しても…未来は…」

(321) 担当:有川
山「未来は変わらないのか?…惨劇は回避出来ないのか?僕はただもう一度…皆んなと芝居がしたかっただけなのに…」

やがて、山口の膝も折れ、力が抜けてゆく。

山「もう…疲れたよ…なんだか…とても眠いんだ…」

山口の周りに天使たちが舞い降りてくる。
と、その時…

(322) 担当:有川
生津が光の中に浮かび上がる。

生「時を戻そう!」
山「…え?」
生「聞こえない?…ならもう一度言えばいい!時を戻そう!」
山「生津さん?」
生「疲れてる?…なら休めばいい!働き方を変えよう!」
山「生津さん…『ぺこぱ』は知ってるんですか?」
生「知らないよ」

(323) 担当:有川
山「大したクソ度胸ですね!ミルクボーイであれだけ大火傷したのに!」
生「何を言ってるの?」
山「いや…尊敬してるんです。ハート強いなぁ…」
生「そんなことよりシゲちゃん!諦める気?」
山「だって…何度過去を変えても、うまくいかないし…」
生「過去を変える?」

(324) 担当:有川
山「それは後で説明します」
生「よく分からないけど…諦めたら全て終わりだよ。芝居、やりたいんでしょ?」
山「そりゃ、やりたいですよ!バラバラになったメンバーを、こうして集める事が出来たんです。死ぬ筈だった細見さんの運命も変えられた。後は芝居が出来れば…」

(325) 担当:有川
生「え?死ぬ?細見くん?」
山「それも後で説明…って生津さん…どうして立ってられるんですか?」
生「何?」
山「だって、生津さんの紙も破ったのに…」
生「んん?…いや、なんか皆んな倒れちゃったよね。俺はさ…」

生津、ズボンを下ろす。
脚にはスクリューの紋様。

(326) 担当:有川
生「しっかりネジでとまってるから」

生津の脚は、舞台と連結している。

生「…ね!」
山「…ちょっと意味が分かんないんですけど…」
生「後で説明するよ」
山「ギャフン」
生「シゲちゃん、うまくいかないって言ってたけどさ…それは、演出家がいないからじゃない?」

(327) 担当:有川
山「え?」
生「さっき皆んなで話してたんだけど…足りないのは演出家だよ!」
山「そうか…何で気付かなかったんだろ…演出家か…」

山口の表情にみるみると生気が蘇る。

山「生津さん…僕…もう一度、やってみます!」
生「悪くないだろう!」
山「ハート強っっ!!」

(328) 担当:有馬
笑顔の山口、駆け出してゆく

しばしの沈黙

馬「…行ったか?」
川「…じゃないですかね」
生「多分…大丈夫です」

ゆっくり身体を起こす男たち

陰「…ったく…」

男たち、大きく息をつく

福「なあ」
馬「え?」
福「あれか?あの尻のポケットにネジ込んでる…」

(329) 担当:有馬
馬「そうやね」
福「尻にポケットボトルネジ込んで…」
陰「絵に描いたような、だな」
生「あの中身、本当にアルコール入ってないんですね」
瓜「アルコールの匂い、しなかったでしょ」
生「ええ」
福「あんな至近距離で話ししてても?」
生「全く」

(330) 担当:有馬
陰「色も香りも完全にウイスキーだよな、あれ」
馬「凄い薬ができたもんやなぁ…」
福「ホンマに…」

その時、外で物音
そして
「細見です細見大輔です細見です細見細見…」
の声が近づいてくる

男たち「シゲ!」
川「戻ってきた!」
生「まさか…」
瓜「なんで!?」

(331) 担当:有馬
慌てて床に臥せる男たち

声の主が入ってくる
「細見、細見、細見大輔です」

生「ん?」

ひとり舞台に突き刺さったテイで気配を消そうとしていた生津

生「細見さん…」
細「…本人です」

男たち、笑顔の細見を見上げ

瓜「あ」
陰「お…細見!」
川「脅かすなよ!」

(332) 担当:有馬
細「細見です」
川「もういいよ!」
瓜「ね細見君、シゲちゃんは?」
細「外に」
生「え?」
瓜「いるの!?」
細「気を失ってます」
瓜「あ…」
福「…やっとか」
細「恩ちゃんと佐久間さんが側に」
瓜「ついてるの?」

(333) 担当:有馬
細「恩ちゃん、『シゲの依存症は俺にも責任がある』って…」
馬「俺にもって…」
川「自分もだから」
馬「いや、全員やし」

苦笑する男たち

陰「…しかし…」
福「とんだ『回復プログラム』やな…(笑)」
生「でも、もうあと少しなんですよね」

(334) 担当:有馬
陰「いい加減、疲れたよ」
生「長い、ですもんね(笑)」
海「ホンマに退院できるんやろか…」

男たち、手にした「台本」を確認する

細「皆さんが全員でここを出るには、この台本をやるしかないんですよ」
一同「…」
細「力を合わせて…」
川「誰がそれ決めたんだよ」

(335) 担当:有馬
馬「あの…医者やろな」
瓜「女医さん…」
馬「うん」
川「くそ!」
陰「なんていったかな、名前…」
福「たしか…」
一同「……」
陰「えーと……いや、えー…ダメ、出てこない」
川「くそっ!やっぱり俺らもココ、(頭を指す)キテんのかよ」
瓜「キテる?」

(336) 担当:有馬
川「細見君は…なんで細見君だけ出られたんだよ!」
細「依存症にならなかったから、ですね」
川「あ……そうか」
福「だから『細見君が死んだ』って書いとるんやな…シゲ」
海「シゲちゃんが一番、キテるって…」

瓜「違う」
馬「ん」
瓜「違う、違うよ」
馬「瓜君?」

(337) 担当:有馬
瓜「だってだって、こんなに書いたんだよ」

台本を指す

瓜「ひとりでこんなに…」
福「分厚いな…」
生「300枚越えてますもんね」
海「こんな長い台本見たことないわ」
瓜「ただ…ただ芝居がやりたいってだけで…こんな…こんなに…シゲちゃん…」
馬「瓜君…?」

(338) 担当:有馬
男たち、あらためて台本に目を落とす

少しページをめくっていた生津

生「あ」
海「何?」
生「この先、凄い長台詞…」
福「うわ、ホンマや」
細「長ゼリで強引にラストに持っていくつもりでしょうかね」
川「わ、わ、何ページあんだよ、これ」

(339) 担当:有馬
馬「…『僕らは取り返す。僕らは僕らの劇場を、僕らは取り返す』…僕らが多いな」
瓜「…『僕らは僕らの足を止めない。僕らは僕らのバトンを僕らは握りしめる』」
川「だから僕らが多いって!」
福「『僕らの向かい風の中、僕らは向かい風に向かって…』」
川「日本語!」

(340) 担当:有馬
生「『走り続ける僕らのバトンは途切れない。僕らのリレーは僕らの終わりを僕らは知らない』…」
川「僕らのリレー?」
細「『僕らは周回遅れになっても、僕らの先頭は僕らのもの』…は?」
海「『僕らの向かい風は、半周回れば僕らの追い風さ』」
瓜「『さ』って…」

(341) 担当:有馬
陰「『僕らの背中には僕らのスクリューが 僕らの背中を僕らを前へ前へと僕らと回り続ける…』」
福「スクリュー?」
馬「背中に?」
瓜「どうやって?」
生「『僕らは海に出た』」
馬「海?」

瓜「…リレーは?」

(342) 担当:有馬
川「『僕らの船は僕らの向かい風を僕らの帆にいっぱいに受けて僕らのスクリューで進んでゆくのだ』」
陰「や、進まんだろ」
福「うわ、これ、まだまだ続くやん」
馬「…これは…」
瓜「覚えるの大変…」
川「ちょ…これ誰のセリフ?」

ページをめくって確認する男たち

(343) 担当:山口
川「かい・・べ」
一同「・・・えっ?!」

有川、もう一度確認

川「うん。海部って書いてあるね」
海「うそ〜ん」
馬「海部君か・・・」
瓜「あらら」
海「いやいや、ちょっと無理ですわ。僕ちゃいますよ絶対、何かの間違いですって」
川「でも、ここに書いてあるから」

(344) 担当:山口
海「だって、僕、年末公演のセリフもろくに喋れへんのよ?噛んでばっかりやし」
川「自分で言うかよ」
海「アカン!無理や!しめられへん!僕じゃこの物語、しめられへん!
生「ベッチーーっっ!!」
海「何?」
生「俺も、ベッチじゃ無理だと思う!!」

(345) 担当:山口
海「せやろ」
瓜「生津くん。そんな大きな声で言わなくても」
馬「海部君。君にはプライドというものは無いのかね」
海「あ、無い無い。そんなのとっくに淀川に捨ててますねん」
川「テメエ!前半ほぼ喋ってねぇんだから、最後くらい良いじゃねぇかよ!」
海「ウボブッ!」

(346) 担当:山口
瓜「そうだよ、本読みも代役の方が、分量多かったんだし!」
海「ウボベブッ!」

海部、静かに泣く。

陰「泣いちゃったよ」
瓜「海部君て、いくつだっけ?」
海「・・・51ちゃい」
瓜「そう」
海「何?」
瓜「ううん」

その時、望遠レンズを覗いていた福本が何かに気付き

(347) 担当:山口
福「た、大変や!こりゃえらいこっちゃで!」
馬「福ちゃん、どないしてん?」
福「い、隕石がこっちに向かってる!」
皆「い、隕石!?」

一同、動揺する

馬「嘘やろ?」
瓜「まさか!」
福「このまま地球にぶつかったら、もう地球は終いやで!」

(348) 担当:山口
川「はぁ!?ダ、ダメだよ!そんな終わらせ方!絶対にダメだって!」
生「今までの壮大なフリはなんだったんだ!」
川「マジでダメだよ!隕石とかは、ほんと最後の手段だって!」
陰「・・・バチが当たったんだよ」

一同、陰山をみる。

馬「バチ?バチってどう言うこと?」

(349) 担当:山口
陰「我々は、はしゃぎすぎた・・・風呂敷を広げすぎたんだよ。」
川「え、どう言うことっすか?意味がわかんないっす」
瓜「僕にはなんとなく、わかるよ」
川「本当に?」
瓜「ごめん、嘘ついた」
川「なんだよ」
陰「福ちゃん」
福「なんすか?」

(350) 担当:山口
陰「その隕石は、小さな月っぽい感じかい?」
福「(覗いて)せやね。なんか小さな月っぽい感じやね。」
陰「・・・やはりな」
川「陰山さん、わかんないっす。説明してください!」
陰「その隕石は、ミニムーン。別名、『大岩』とも言う」

(351) 担当:山口
馬「おおいわ??・・ん?どっかで聞いたような・・」
陰「・・・役者という生き物は、台本の中でどんどん好き勝手なことやりだして、やがて取り返しが付かなくなる。今回だってそうだ。ネジだの、納豆だの、みんなアドリブがすぎたんだよ」
川「え、何を言ってるんすか?」

(352) 担当:山口
瓜「すごく良くわかります」
川「瓜くん?」
瓜「ごめんなさい。嘘です。」
福「陰山さん、もう少しわかりやすく説明してもらって良いかな?」
陰「その必要は無い。もう終わるのさ、何もかも。僕らは月子を怒らせたのさ。それが『大岩』となって、迫って来た」
川「は!?」

(353) 担当:山口
川「おれ嫌だよ!納得いかないよ!こんな終わり方!最終的には大岩かよ!結局いつも大岩頼みなのかよ!」
陰「仕方がないさ。我々にはどうすることも出来ない」
福「いや、そうとも限らへんで!」
生「どう言うことっすか?」
福「細見くんが、、何とかしてくれるはずや!」

(354) 担当:山口
生「はっ!そ、そうだ!細見君だっ!」
馬「せや!いつもなんだかんだ、細見君が上手いことしてくれんねん!」
福「そう!例え、稽古に2日しか来れなくても、彼はいつも何とかしてくれた!」
川「そうだ、隕石なんかで終わらすわけには絶対にいかないっ!絶対にっ!!」

(355) 担当:山口
瓜「あれ?そう言えば細見君は?」
生「いないっ!オシッコかも!このタイミングでオシッコかも!」
川「いや、きっと何か良いアイデアを思いついたんだ!」
馬「・・・海部君」
海「はい?」
馬「ええな。絶対に余計なことすなよ」
海「・・・もちろんですよ!」

(356) 担当:海部
川「マジだかんな!」
海「(皆に聞こえぬ独言)フリやな...」

細見興奮した様子で戻る

細「大岩からのメッセージが届きました。」
馬「なんやて!」
瓜「え、いつ?本人が持ってきたの?」
細「矢文です。危うくこめかみを射抜かれるところでした。では読みます」

(357) 担当:海部
細「あの隕石は私の皆様への愛の結晶。おじさま達の実力を見せて下さい。それが私の愛に見合うものであったなら、地球は救われます。さあ、幕をあけるのよ!」

瓜「そう言うことか。これは依存症回復プログラムと見せかけて、僕たちの演劇人復帰プログラムだったのか。」

(358) 担当:海部
陰「そして見事演じきれば全てが解決する」
川「なんか俺たち、結局大岩の手のひらの上で踊らされてるみてぇだな」
生「でもシゲちゃんどうする?あれじゃ芝居どころじゃ...」
細「もちろん出します!どんな形であろうと」
海「よっしゃ!どこまでも付いていくでー!」

(359) 担当:海部
「All You Need Is Love 」の合唱&クランプ自然発生 ひと盛り上がり

細「とりあえず、ここにいる人間だけで喝入れいきますよー!」
皆「おおー!」
細「芝居はみんなで作るー!」
皆「芝居はみんなで作るー!」
細「胸に刻めー!」

皆、胸を小刻みに叩く

(360) 担当:生津
細見「・・・もう一回!」
有川「え?」
細見「・・・芝居はみんなで作るー!」
皆「芝居はみんなで作るー!」
細見「芝居はみんなで作るー!」
皆「芝居はみんなで作るー!」
細見「芝居はみんなで作るー!」
皆「芝居はみんなで作るー!」
細見「芝居は・・・」
皆「!」

(361) 担当:生津
感極まり声にならない細見をフォローするように、そして自分達の魂の在り処を確認するように男達は何度も繰り返す

皆「芝居はみんなで作る!!芝居はみんなで作る!!」

恩田、佐久間、辰巳が山口を支えながら来る。男達の輪の中に入る。
勢揃いした男達。

(362) 担当:生津
男達は声をあらん限りに叫ぶ。
繰り返される男達の魂の叫びが最高潮に達した時、

細見「ハイーーーーッ!!!」

静寂。

男達の目が、自信と希望に満ちている。
ここにいるのは、役者達だ。

細見が語り出す。
狼煙を上げるように!

(363) 担当:生津
細見「・・・俺たちは芝居を作り、そして大きな声で叫ぼう!光あふれるこのステージの上で、あらん限りの声を振り絞るんだ!俺達の心からの叫びは、この街だけでなく、はるか遠く大海原を超えて、たくさんの人の心に必ず届くはずだから!・・・

(364) 担当:生津
・・・だから!俺たちは、これからも芝居を作り、そして叫び続けるぞーーー!!」
役者達「おおーーーーっ!!!」

(365) 担当:細見
その時、舞台奥の壁が轟音と共に崩れ落ちる。
役者達、一斉に後ろを振り返ると、目の前に水平線が広がっている。
そして夜空には2つの月が輝いている。
最初は囁くような声で、やがて曲と共に大きな渦に。

(366) 担当:細見
役者達「お元気ですか?これが君に出す初めての、そして最後の手紙です。
もう随分前の話になりますが、狂おしいほどにどこか遠くの国へ行きたいと思ったことがあります。

(367) 担当:細見
このちっぽけな街を離れ、どこまでも広がる赤茶けた大地と、今にも手が届きそうな星に囲まれて、暮らしてみたと思ったのです。
朝日と共に走り出し、夕陽と共に家に着き、夜は独り、いつまでも星を眺めては、喉が潰れるぐらいの大声で、歌い続けようと思いました。

(368) 担当:細見
そしてまた、色々なことについて考えてみるのです。
例えばそれは、孤独について。
たくさんの人と手を繋ぎ合うことは、より深い孤独の海に投げ出されるのではないかとか。
例えばそれは、世界の終わりについて。
どこまでも続くこの大地が、ある日突然崩れ落ちたら。

(369) 担当:細見
何の前触れもなく、全てが壊れてしまったら、どんなに爽快な気分になることでしょうか。
崩れ落ちる最後の大地でじっと空を見つめたまま、僕はすべてが砕けてゆく音を聞くのです。
こんなことも考えます。
君がここにいたのなら。

(370) 担当:細見
君と地平線の彼方まで、息続く限り走り続けたい。
人はどこまで強くなれるのか、そんな他愛も無い話をしたい。
僕の中に広がる無限と、君の瞳の中の無限が、
なんだか合わせ鏡のように不思議に奇妙な無限連鎖の輪の中で、

(371) 担当:細見
ただ独り孤独の海に投げ出された僕は、
あの大海を越えていったいどこへ行くのでしょうか。
もう一度人生をやりなおせるのなら、君はどうしますか?
僕は多分、それでも同じ事を繰り返してしまうんだと思います。

(372) 担当:細見
もう一度やり直せるのなら誰だって一生懸命生きたりしないでしょうね。
あの時僕は待っていました。
ずっとずっと待っていました。
まだ夏を引きずったままの僕には、あの秋の夜はとても寒く、立ち続ける事に疲れ果てた僕の胸の奥で、もう帰ろうという声が繰り返されていました。

(373) 担当:細見
今度君と出会えたのなら、僕の迷路に迷い込んだ、まだ聞いたことのないあの懐かしい言葉、きっと君に伝えよう。
永遠なものなんて、きっとありはしないんだね、寂しそうに呟いた君を、優しく胸に抱きいつまでも語り続けよう。僕の胸の中で震え続ける君に、いつまでも語り続けよう。

(374) 担当:細見
例えばそれは、荒野に佇む男の叫び。
例えばそれは、あの晩の忘れ物。
例えばそれは、君の肌の暖かさ。
例えばそれは」

曲がカットアウト。
舞台がゆっくりと斜めにせりあがり、役者達が力強く立ち続ける。
2つの月が一つに重なり、弾け飛ぶ。

(375) 担当:細見
その瞬間、数多の「ネジ」が舞台上に降り注ぐ。
全身に「ネジ」を受けながら、微動だにしない役者達。
しかしただ一人、有馬だけが異常に痛がる。

馬「痛い、痛い、なんで?」

暗転。
暗闇の中、拍手が聞こえてくる。

(376) 担当:細見
明かりがつくと、そこは「クラゲのゲ」
有馬が何脚か並べた椅子の上に寝ている。
テーブルの上には飲み干した焼酎セット。
グラスが2つ。
有馬の顔の上に「ネジ」を落とし続ける古屋。
飛び起きる有馬。

馬「痛い!」

古屋、ニヤニヤしている。

(377) 担当:細見
馬「何すんの!」
古「やっと起きた」
馬「え?」
古「全然起きないんだもん、びっくりしたよ。ネジ何個使わすのよ」
馬「え?」

体を起こすと、体中ネジだらけの有馬。

馬「(ネジを一つ持って)…夢…やったんか」
古「うなされてたよ」
馬「え?」

(378) 担当:細見
古「デカイデカイって。何?」
馬「え?…知らんわ…」
古「もう5時だよ。ほら、帰った帰った」

古屋、テレビをつける。

馬「何してんの?」
古「何が」
馬「あれ、店長は?」
古「は?」
馬「店長どこいってん?」
古「寝ぼけてる?」
馬「へ?」

(379) 担当:細見
古「ったく…早く店じまいしたいんだから、お金払って帰ってよ」
馬「へ?」

有馬、立ち上がり辺りを見回す。

馬「クラゲのゲやんな?ここ」
古「そうよ」
馬「へ?」
古「何、もう気持ち悪い!」
馬「(テーブルの2つのグラスを見て)ほんなら、これ誰のグラス?」

(380) 担当:細見
古「何言ってんの?」
馬「いや……」
古「お連れさん、今、トイレ」

有馬、トイレの方を見る。
テレビの画面に山口の姿が。

古「ほら、もう朝の番組始まっちゃったよ!」
馬「え…シゲ?」
古「シゲちゃんすごいよねー。俺らの中で一番の出世株だよ」
馬「出世株…」

(381) 担当:細見
古「ブレイクトレンド俳優から朝の番組の顔になるなんてねー」

唖然とする有馬。

山「さ、今日のスタジオゲストは…」

ねばーる君のキグルミを着た福本と、全身黒服の海部が登場。

(382) 担当:細見
山「ねばーる君のゆるきゃらで一躍時の人となった芸人の福本さん、そして、裸一貫、海印のネジ工場から大成功を収めた海部社長です!」

福本、ねばーる君の頭を取って素顔を晒す。

福「ど~も、エスシーアールイーダブリュー!スクリュードライバー福本です!」

(383) 担当:細見
海「海部です。最近Amazonで購入したのは、スケートリンクです」
山「さすが海部さん、ちなみに今日のお車は?」
海「もちろん、リムジンです。リムジン!テムジン!やしきたかじん!」

スタジオ内、大爆笑。

古「いや~最高だね」
馬「死ぬほどつまらん…」

(384) 担当:細見
山「さ、今日は日本各地とも中継がつながっているようです。まずは、人面魚の養殖で話題になった、佐久間さん」

画面が切り替わると、人面魚を抱えた佐久間。

佐「ギョギョギョッ」
山「『マジデカ』の流行歌で大ブームを巻き起こした、ミュージカル俳優の有川さん」

(385) 担当:細見
画面が切り替わると、どこかの劇場にいる有川。

川「(歌って)マジデカ~マジデカなのか~それほどでもないのか~♪」
山「そして、今日は各地でお祭りも行われるようです。実行委員会委員長の瓜生さん~」

画面が切り替わると、祭り装束の瓜生。

(386) 担当:細見
瓜「ハマシャーイ!ハマシャーイ!トゥーシャイシャイボーイ!」
山「祭りの準備の方はいかがですか?」
瓜「はい、今まさにハマシャーイって感じで、特設舞台を組み立て中です~」

画面には、舞台装置を組み上げている恩田の姿。
そこへ汗だくの辰巳が駆け寄ってきて

(387) 担当:細見
辰「兄ちゃん、こっち終わったよ」
恩「おう、じゃあこれあっち持ってくぞ」

恩田、辰巳、平台を持って画面から消える。

山「素晴らしいですね~」
瓜「あ、今ちょうど、祭り男の生津君が、舞台と連結されるところです」

画面には、舞台と連結している生津が映し出される。

(388) 担当:細見
山「生津さ~ん!舞台と連結するのは、痛くないんですか~?」
生「大丈夫です!ほら、見てください、この足の紋様。これはですね、我が一族が代々受け継いだものなんですけどね、舞台と一つになることで、商売繁盛、病気平癒、厄除けになると言われております」

(389) 担当:細見
瓜「生津君は、このまま1週間舞台と連結しまハマシャーイ」
山「すごいですねー。ここだけの話ですが、生津さんはなんと、私立探偵もやってらっしゃるとの事で」
生「はい!お依頼はネットで『高橋大輔探偵事務所』と検索ぅ~!」
山「そーゆーのいいから」
生「ALRIGHT!」

(390) 担当:細見
山「はい、皆さん、ありがとうございました~。さ、そして今日のご意見番はこの方、演劇界の重鎮、陰山さんです」
陰「どうも。演劇界の重鎮であり、至宝であり、至高でもある、陰山です」

テレビに釘付けの有馬。

馬「……まだ夢見とんのか…わし…」

(391) 担当:細見
トイレの水の流れる音。
扉が開き、細見が出てくる。(完全に女性の姿になっている)

馬「…え?…細見君?」
細「細見?誰それ?」
馬「へ?」
細「あんた、もう私の名前忘れちゃったの?やーねー、月子、プンプン!」
馬「つき…」

細見、有馬の横に座り

(392) 担当:細見
細「ま、いっか、今日は楽しかったし。ゴールデン街で声かけられた時はどうしようかなーって思ったけど…」
馬「は、はぁ…」
細「約束、ちゃんと守ってね」
馬「や、やくそく?」
細「え…まさかそれも忘れちゃった?いやだもー」
馬「え、え、何?わしなんか約束した?」

(393) 担当:細見
細「ほんとに覚えてないの?」
馬「いや…えーっと…結婚するとか」
細「ちげーよ」
馬「せやな」
細「…劇場」
馬「へ?」
細「劇場、作ってくれるんでしょ?」
馬「わしが?」

(394) 担当:細見
細「そう。そして一緒に芝居をするの。だって有馬さん、役者さんなんでしょ?あー、楽しみだな~今年の年末!」
馬「はぁ…」
細「んじゃ、よろしくね~。店長、ご馳走さまでした~」
古「はいよ~」

細見、店から出ていく。

古「しょんべん」

トイレに行く古屋。

(395) 担当:細見
一人残される有馬。
ふと窓の外を見ると、明け方の空に月が2つ。
有馬、しばらく月を眺め

馬「……まぁ…芝居できるんやったらええか」

グラスに残った焼酎を一気に飲み干す。

音楽「ボトル2本とチョコレート」がかかる。

暗転

(完)

(396) 担当:細見
ナポリレー第1弾
「世界から抜け落ちた有馬自由の奇妙な物語」

【執筆者】

 細見大輔
 瓜生和成
 有川マコト
 有馬自由
 山口森広
 海部剛史
 生津徹
 福本伸一
 陰山泰

どうもありがとうございました。